A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

ローカル・メディアと都市文化

縁あって著者から頂いた,『ローカル・メディアと都市文化』を読了。サブタイトル?に「『地域雑誌 谷中・根津・千駄木』から考える」とあるように,内容が谷根千界隈の中心となっていて,その中に住んでいる身としても,より楽しめて読めたと思う。あと,渡良瀬通信というローカル・メディアもこの中で紹介されているのですが,渡良瀬川東洋大に居たときによく調査に行っていて,葉鹿橋とかわかる名前が出てきたのも個人的に良かった。まとまった内容紹介とか批評みたいなことはボクにはできないので,いつもどおりなんとなく思いついたことをメモとしておいておく。

  • 全体として,ボクの理解をまとめると,「ローカル・メディア(である必要は必ずしもないけれども)によって地域の情報や歴史が記録され,その情報がローカルな人々に伝わり(ソトからの評価も含めて)咀嚼されることによって,地元や「地域」の文化への愛着や帰属意識が生まれ,それがその地域の活性化,あるいはその地域らしさを保存していくことに繋がる。」という感じでしょうか。荒いわって怒られそうですが。
    • さらに,こんなことをいうと怒られそうだけど,本を通したメッセージはわりとシンプルで,どちらかというと,それをより自分のものとして体験するために,本一冊が必要なのかもなぁと思ったりしました。
  • 明確には定義できない「谷根千」という特定の地域を表す言葉が,『地域雑誌 谷中・根津・千駄木』に端を発して生まれた言葉であることを初めて知った。
    • なんというか,でも,谷根千という言葉自体がどう生まれたかなんて,考えもしなかったというのが正直なところかもしれない。確かに語呂がいいし,見た目も悪くない。ただ,ボク自身谷根千という言葉を使うのは,多分ほとんどない。
  • この谷根千という言葉に付与されるイメージが,内外に影響して,今の谷根千(というイメージ)ができているという考察は面白いなぁと思った。特にソトからの評価によってナカの人が影響を受けるというのは,確かに多少なりともありそうだなぁと思った*1
  • 「情報の記録」するという行為のみで,読むか読まないかやその解釈や価値判断は読者に委ねる一方で,そういう行為を通して(地元への愛着を育てていくことで)ボトムアップ的に地域の活性化に貢献したいという雑誌のスタンス自体は,意思決定において科学的な知見は提供するがその判断や価値判断までは踏み込まないという,科学者のスタンスと似ていて面白いなぁと思ったりしました。
    • この良さはすごくわかる一方で,これってやっぱりちょっと間接的だよなぁと思ったり。なんとなくこういうスタンス自体に対するジレンマみたいなものもあったら聞いてみたかったなと思いました。いや,僕自身はどちらかというと,全然後者な人間なのですが…。
  • 地元への帰属意識というか愛というかは,ボクの友人が「自分の子供に「地元」を持って欲しい」という理由もあって高知に帰ったこともあって,なんとなく気になる視点。確かに,この地元への愛着って個人にとってもなんかちょっと大事な気がするんですよね。全然言葉にできないのですが。。。
  • 最後に,これは個人的なメモで,この本を読み始めたのは,和賀川の会報を解析した論文を書いたことも関係しているのですが,ローカルで面白い取り組みを拾い上げてより大きな文脈に載せるという意味では確かに似ているのですが,個人的には得られるかなと思っていたポイントが少しずれていた感じがする(なんというかもっと実務的な文脈に載せたい感じで,これは本書が悪いわけでは全然ないです)。ただ,しばらくすると,なんか繋がるかもしれません。総じて,面白かったです*2

*1:特に,ここに長く住んでいる人というよりは,ここで(新たに)商売している人はそういうイメージに影響を受けているかもなぁと根拠もなく思いました

*2:一冊本を書くってすごいですよね。なんかボクもそういう厚みのある…

全国の休廃止鉱山廃水の元素濃度の経時変化

Iwasaki Y, Fukaya K, Fuchida S, Matsumoto S, Araoka D, Tokoro C, and Yasutaka T. 2021. Projecting future changes in element concentrations of approximately 100 untreated discharges from legacy mines in Japan by a hierarchical log-linear model. Science of the Total Environment 786:147500. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.147500

全国の休廃止鉱山の99箇所の鉱山廃水*1中の元素濃度の経時変化を階層ベイズモデル*2で推定した結果がSTOTENに載りました*3。オープンアクセスで,ここから付録も含めて落手可能です*4。色々注釈に加えてしまいましたが,なんといってもFKYさんと協働できたので,ボクは大満足です。結局使ったモデルの構造自体は,めっちゃシンプルですが,色々複雑なモデルを検討してもらい,感謝です。階層モデルのなんちゃって?エンドユーザーとしては,また相談させてもらいたいところです。
さて,対数をとった金属濃度に線形の階層モデルを当てはめたというだけといってしまえばそれだけで*5,結果もめちゃくちゃシンプルです(粗々の紹介ですみません)。

  • 全国平均で見ると,鉱山廃水(未処理水)の濃度は,総じて減少傾向の元素が多い。
  • ただ,個別の元素&鉱山廃水の組合せでみると,濃度が減少していると今回のデータ*6から言える組合せは,元素ごとにみても,30%未満と多くなくて,逆に増加していそうと判断される鉱山廃水も少なくない。
  • 100年後の濃度予測をベースに,将来的に濃度が減少して排水基準値未満になる鉱山廃水の数を元素ごとに調べてみると,そういう鉱山廃水はほとんどない。
  • 荒っぽくまとめると,「全国レベルの傾向からいって鉱山廃水の未処理水の元素濃度が下がって排水基準未満になるようなところが今後どんどん出てくる可能性は低く,排水基準の遵守をベースにすると,これからも長期的に鉱山廃水処理(とそれに伴うコスト)が必要になりそう」という感じでしょうか。

そういう意味で,鉱山廃水処理の低コスト化や,今年度ガイダンス(案)公開された利水点等管理の考え方がますます重要になってくるのでは?と個人的には思います*7

*1:分野では,坑廃水と呼ばれる

*2:といっても,GLMMレベル

*3:この雑誌,査読を受けている感じとかで,あまりいい印象がなく,個人的に好きではないのですが。。。大人な事情もあって,今回初めて出して,なんとまぁ…という感じでした。クリティカルなことを言われないというのは有り難いのですが,ほんとに機能してるの?とちょっと不安になったりします。まぁ日本人が真面目な傾向があって○○の厳しさってまぁ…ということなのかもしれません。とりあえず履歴を見ていただければわかりますが,個人的にこれまでで最もすんなり受理された論文の一つだと思います。いや,みんな自分の好きな学会が出している論文誌に良い論文出しましょうよ(と言っても全然説得力ないっすね)

*4:Yさん,ありがとうございます

*5:一方で,99箇所で7元素のデータを個別に回帰するみたいなことをとある方面でやろうとされていたので,いや,さすがにそれはちょっと待ってくださいよ,という感じです

*6:2003年から2019年の年平均値

*7:合わせて公開された生態影響評価ガイダンス(案)も是非よろしくお願いいたします!

最小の毒性値に不確実性係数を用いて導出される予測無影響濃度の限界を意識することのススメ.

岩崎雄一, 加茂将史. 2021. 最小の毒性値に不確実性係数を用いて導出される予測無影響濃度の限界を意識することのススメ. 環境毒性学会誌 24:43–47. 10.11403/jset.24.43

doi.org
生態毒性データを集めて,最小の毒性値を選出して,それに不確実性係数*1を適用して,予測無影響濃度を求めることは,よくやられているのですが,その危うさについて,種間の感受性のばらつきという観点から,少し整理して議論した資料論文です。当事者の方にはわりとショッキングな内容も含まれているかもしれませんが,ここが立ち位置だと認識することが重要だと思っています*2。この原稿を準備した理由はどちらかというと,イントロで触れている経験がわりとショッキングだったというのが正直なところですが,個人的には重要な点を指摘できたのではないかなと思います。査読者には,この方法自体にはもっと別の問題もあるよね,という指摘ももらっていたのですが,ひとまずそのあたりはさらっと触れているだけになっています。読みやすいボリュームかなと思いますので,是非ご笑覧ください。

*1:不確実係数,安全係数などとも呼ばれる

*2:一方で,通常求められる予測無影響濃度についてはここまでショッキングなことにはなっていないだろうなぁと,いくつかの理由をもとに,思っています。たとえば,3種といいつつ,他の種を集めていたりするし

3種でもわりとSSDをうまく推定できそう?

Iwasaki Y, Sorgog K. 2021. Estimating species sensitivity distributions on the basis of readily obtainable descriptors and toxicity data for three species of algae, crustaceans, and fish. PeerJ 9:e10981 DOI: 10.7717/peerj.10981.

peerj.com
先月ですが,藻類,ミジンコ類,魚類からそれぞれ3種の毒性値がある場合,その3つの毒性値の平均と標準偏差を使えば,8種以上の毒性値から推定された種の感受性分布(対数正規分布を仮定)の平均と標準偏差,さらにはHC5(95%の種が保護できる濃度)を,そこそこうまく推定できそうですよ,という論文がPeerJに載りました(オープンアクセスです)。加茂さんが代表のLRIの研究成果です。

ボクの記憶が正しければと,研究の前段階にNさんと話していて,「物理化学的なパラメータでSSDを直接推定できないなら,あるデータを使えばいいじゃん」とさらっと言われて,あーなるほど,と思って,やった研究です。3種の平均と標準偏差の「効果」はすごく大きいのですが,敢えてさらにそこに記述子を加えるとすると,例えば,VerhaarのClass 4の変数が予測には役立ちそうだ,ということもモデル解析結果からわかりました*1。もっと,大きいデータベースで検証したい(+構想はある)のですが*2,手が回っておらず,やって頂ける方募集中です!種の感受性分布の推定に必要な種数は,10種以上や~とか,13種や~とか,色々言われていますが,じゃあそこまでないときに使えないか,というと,そういうことではないと思うのですよね,このあたりの検討を今度ももう少しできればと思っておりますが。。

*1:このあたりも既往知見から考えると予想されることで,別に新しいことではないです

*2:予備的な解析では,今回の結果をきちんとサポートするような結果になりそうだということも分かっているのですが

MOSAIC_SSD

Kon Kam King G, Veber P, Charles S, Delignette-Muller ML. 2014. MOSAIC_SSD: A new web tool for species sensitivity distribution to include censored data by maximum likelihood. Environ Toxicol Chem 33:2133-2139 DOI: 10.1002/etc.2644

https://mosaic.univ-lyon1.fr/ssd
Censored(打ち切り)の毒性データも考慮して, 種の感受性分布(SSD)をウェブ上で描けますよ,というある種の宣伝的な論文。Charlesさんにリサゲでコメントされて,眺めてみた論文*1。Rだと,ssdtoolsとかもあるので,Rが使えるのであれば,それで十分な気がするのですが,censoredって最尤推定であればわりとお手軽に扱えるんですねと,知れてよかった。MOSAIC_SSDでは例題があってコードが出力されるので,それを真似れば,簡単に自分のデータでも再現できる*2。前に書いたとおり,SDの計算あたりとかが気持ち悪いんだけど(それはボクの理解が足りないだけだと思うのですが),まぁそれを置いておけば,便利な方法を知れてよかった。という感じです。
yuichiwsk.hatenablog.jp

*1:余談なのですが,同じような著者陣で,階層モデリングSSDの論文も書いているのですよね。こちらも近いうちに読まないと…という感じ

*2:ただし,Rが使える前提ではありますが

論文ななめ読み

以下,ランダムに目についた論文をざっと読んでみたので,かなり雑多なメモです。

Cortelezzi A, Armendáriz L, Simoy MV, Marinelli CB, Cepeda RE, Capítulo AR, Berkunsky I. 2017. Site-occupancy modelling: A new approach to assess sensitivity of indicator species. Ecol Indic 79:191-195 DOI: https://doi.org/10.1016/j.ecolind.2017.04.040.

CSUに居た時によく出てきたOccupancy modelのMARKを河川の貧毛類につかって,水質に対する感受性を評価した論文。発想としては,面白いと思うんだけど,結局「使用した水質が主要な影響要因であると仮定している*1」し,多くの貧毛類では用いた水質パラメータは重要でなかったという落ちもあったりして,なんだかなぁという印象でした。ただ,そうかMARKってこう使えるのかって思わせてもらったという意味で読んでよかったです。
sites.warnercnr.colostate.edu

Malaj E, Guénard G, Schäfer RB, von der Ohe PC. 2016. Evolutionary patterns and physicochemical properties explain macroinvertebrate sensitivity to heavy metals. Ecol Appl 26:1249-1259 DOI: https://doi.org/10.1890/15-0346.

系統樹における位置と金属のパラメータで毒性を室内毒性試験における毒性値を予測するという論文。これすなわち,SSDで系統的な近さを考えることと同じだよね,と思ったら,きちんと,van den Berg et al. 2021でそいう感じで整理されていました(ボクのざっと見の判断ですが)。まぁでも,悪くはないけど,予測性はめっちゃいいってほどじゃないよね,という感じがする(そしてそれがなんともいえないところだと思う)。

Larsen S, Comte L, Filipa Filipe A, Fortin M-J, Jacquet C, Ryser R, Tedesco PA, Brose U, Erős T, Giam X, Irving K, Ruhi A, Sharma S, Olden JD. 2021. The geography of metapopulation synchrony in dendritic river networks. Ecol Lett 24:791-801 DOI: https://doi.org/10.1111/ele.13699.

Cardiffの時に,博士でいたStefanoのEcology Letter論文。アブストと図をさらっとしか見てないけど,シンクロの程度と距離の関係が実測データからざっと予想通りになっていて,面白いっすね,という感じだった(ごめんなさい,あまりちゃんと読んでないです)。アメリカにいる某方っぽいと思ったら,やはりちゃんと引用されていた。

*1:この仮定は多くの研究で問題になると思う

松原団地のお話

東洋大に通勤していたときに目にしていた松原団地に着目して展開される団地のお話。なんとなくそれくらいのイメージでしか読み始めなかったけど*1団地のイメージや中身の時代的な変化とかが見えて、面白かった。第4章前半部をざっと読み飛ばしたけど、最後に、団地から地域にネットワークが広がっている絵がぼやっと頭の中に広がったのもちょっと個人的に面白かった。ローカルな事例だけど、そこから紡ぎ出される知見とか、そういう事例の蓄積とか、いかにそれを見える形にするか、とか、そのあたりにも最近なんとなく興味があります。

*1:もう一つの理由はそっと胸にしまっておく笑