A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

全国の休廃止鉱山廃水の元素濃度の経時変化

Iwasaki Y, Fukaya K, Fuchida S, Matsumoto S, Araoka D, Tokoro C, and Yasutaka T. 2021. Projecting future changes in element concentrations of approximately 100 untreated discharges from legacy mines in Japan by a hierarchical log-linear model. Science of the Total Environment 786:147500. https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2021.147500

全国の休廃止鉱山の99箇所の鉱山廃水*1中の元素濃度の経時変化を階層ベイズモデル*2で推定した結果がSTOTENに載りました*3。オープンアクセスで,ここから付録も含めて落手可能です*4。色々注釈に加えてしまいましたが,なんといってもFKYさんと協働できたので,ボクは大満足です。結局使ったモデルの構造自体は,めっちゃシンプルですが,色々複雑なモデルを検討してもらい,感謝です。階層モデルのなんちゃって?エンドユーザーとしては,また相談させてもらいたいところです。
さて,対数をとった金属濃度に線形の階層モデルを当てはめたというだけといってしまえばそれだけで*5,結果もめちゃくちゃシンプルです(粗々の紹介ですみません)。

  • 全国平均で見ると,鉱山廃水(未処理水)の濃度は,総じて減少傾向の元素が多い。
  • ただ,個別の元素&鉱山廃水の組合せでみると,濃度が減少していると今回のデータ*6から言える組合せは,元素ごとにみても,30%未満と多くなくて,逆に増加していそうと判断される鉱山廃水も少なくない。
  • 100年後の濃度予測をベースに,将来的に濃度が減少して排水基準値未満になる鉱山廃水の数を元素ごとに調べてみると,そういう鉱山廃水はほとんどない。
  • 荒っぽくまとめると,「全国レベルの傾向からいって鉱山廃水の未処理水の元素濃度が下がって排水基準未満になるようなところが今後どんどん出てくる可能性は低く,排水基準の遵守をベースにすると,これからも長期的に鉱山廃水処理(とそれに伴うコスト)が必要になりそう」という感じでしょうか。

そういう意味で,鉱山廃水処理の低コスト化や,今年度ガイダンス(案)公開された利水点等管理の考え方がますます重要になってくるのでは?と個人的には思います*7

*1:分野では,坑廃水と呼ばれる

*2:といっても,GLMMレベル

*3:この雑誌,査読を受けている感じとかで,あまりいい印象がなく,個人的に好きではないのですが。。。大人な事情もあって,今回初めて出して,なんとまぁ…という感じでした。クリティカルなことを言われないというのは有り難いのですが,ほんとに機能してるの?とちょっと不安になったりします。まぁ日本人が真面目な傾向があって○○の厳しさってまぁ…ということなのかもしれません。とりあえず履歴を見ていただければわかりますが,個人的にこれまでで最もすんなり受理された論文の一つだと思います。いや,みんな自分の好きな学会が出している論文誌に良い論文出しましょうよ(と言っても全然説得力ないっすね)

*4:Yさん,ありがとうございます

*5:一方で,99箇所で7元素のデータを個別に回帰するみたいなことをとある方面でやろうとされていたので,いや,さすがにそれはちょっと待ってくださいよ,という感じです

*6:2003年から2019年の年平均値

*7:合わせて公開された生態影響評価ガイダンス(案)も是非よろしくお願いいたします!