A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

以前に作成して消えてしまったのですが,googleのキャッシュにあったので,復活(2012/05/02)。

Iwasaki, Y., Ormerod, S.J., 2012. Estimating safe concentrations of trace metals from inter-continental field data on river macroinvertebrates. Environmental Pollution 166, 182–186.

Environmental Pollutionに載った論文にページ番号等がつきました。雑誌のサイトはこちら*1。以下,少しばかり紹介と経緯をば。


この研究自体は,英国,米国,日本において,主に金属汚染が底生動物に及ぼす影響を評価することに実施された調査結果を集めてきて(計400地点以上),それをプールして(まとめて),亜鉛,銅,カドミウムマンガンの各金属濃度(溶存)とEPT種数*2の関係を閾値応答を仮定したモデルで評価し,影響が出ないと予測される濃度(以下,安全濃度)を推定したものです。この野外データから推定した安全濃度を各国の基準値やEUのリスク評価で導出されている予測無影響濃度と比較すると,ほぼオーバーラップしており,これらの室内毒性試験ベースに求められた安全濃度が(厳密には,EPT種数の保護という観点で)protectiveであることが示唆される,という考察です。論文中の図1を見て頂けると,非常にデータがばらついていることが分かるのですが,それを分位点回帰というものを使って解析すると,上記のような結果が得られたという感じです*3。非常に粗い解析で課題は多いのですが*4,なかなかおもしろい感じに仕上がったんじゃないかと個人的には思っています。


さて,長くなってしまいましたが,経緯を少し。この研究自体は,CEHのEdward TippingのところでポスドクをしていたTonyから,「君の論文の生データをくれないか?」とメールがきたことが,最初のきっかけです。ほんとこれがなかったら,イギリスにも行ってなかったですし,この論文もなかったはずです*5。Tonyが色々データを集めていることをメールで聞き,是非ボクもそのデータを解析したいと思ってお願いして,英国に3ヶ月ほど行ったわけです*6。結局,論文になった結果が出たのは帰国後ですが,共著者のSteveはとてもよく面倒を見てくれて,ほんとありがとうでは言い足りません。「さりげなく持ち上げてくれること」「すかさずフォローをいれてくれるところ」そして「かっこいい英語に直してくれること」と,色々な面でとても勉強になりました*7。いやはや,ほんと色んな人に支えられてボクはいるなぁと思う次第です。


ということで,次はもう少し踏み込んだ研究ができればと思います。関係者の皆さま,ありがとうございました。

*1:ご連絡頂ければ(yuichiwsk[あっと]gmail.com),別刷りPDF喜んでお送り致します。

*2:カゲロウ・カワゲラ・トビケラの分類群数の和。正確には各調査で標準化しています

*3:閾値応答+分位点回帰は,少なくともEcotocicologyな分野では,初めての利用のようです(査読者もそうコメントしてきました)。

*4:特にSETACあたりでは近年当たり前になりつつある,金属の生物利用可能性のあたりを考慮していないとかは気にしました。でも,これが重要かどうかは,早瀬等の流水を好む水生昆虫では分かっていませんし。野外での応答はもっと複雑な可能性もあるので,シンプルに対処することを心がけました。この点は別途原稿を準備していたりします

*5:そう考えるとすごい

*6:結果的にTippingのところに場所がないと言われて,Cardiff Universityの共同研究者であるSteveのところに行くことになりました(滞在期間の半分以上は,みんなが同定している実験室がボクの部屋でしたが。)。データのために,そんなんわざわざと言われるかも知れませんが,どこの誰かもわからない人と大量のデータは共有できないというのは納得がいきます

*7:最初の2つはMTDさんと非常によく似ていると思う