A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

Green J.W., Springer T.A., Staveley J.P. (in press) The drive to ban the NOEC/LOEC in favor of ECx is misguided and misinformed. Integr. Environ. Assess. Manag.

NOECやLOECを禁止しようというLandisとChapmanの論考に対する反論論文(Short Communication)。基本的に言っていることは理解できるし,LandisとChapmanの原稿にも言葉足らずのところがあったと思う。配慮が足りなかったといえばそれまでだけど,基本的に生存とか繁殖とかを使う生態リスク評価者にとっては,ちょっとあーそんなに色々エンドポイントありましたね?という感じなのかもしれない*1。ただ,ボクが慣れないせいか,ちょっと読みにくい。でも大事な指摘をされていると思う。あまり自信がないですが,理解した範囲で,ざっと論点をまとめますと,

  • NOECやLOECだけではなくて,帰無仮説検定全体を禁止するような文章に読める。
    • これは細かい点だけど,おっしゃる通り*2。個人的にはLandisとChapmanの言葉選びが悪かったと思う。
  • ECxがうまく推定できないデータもある
    • 応答変数が連続変数ではなく,順序変数だったりとか。
  • x%がくせもの
    • 上の応答変数が順序変数だった場合とかも当てはまる。
    • そもそも10%*3がかなり大きい影響を意味するエンドポイントもある(著者らが出している例は奇形)。そういう場合にどうしたらいいかわからない*4
  • ばらつきがおおきすぎたり,全然正規分布したり,等分散でなかったりするデータがある。
    • ばらつきが大きすぎるとか,それ,そもそもどうやって解析するんですか?って感じも受けなくないですが。
  • いきなり死亡率0%から100%になる毒性結果が多い。
    • なので,実際によくあるデータにあった解析方法が必要だし,それは標準的な回帰分析ではないだろう。
    • こんなんでそもそもその間の影響を議論しようとするのが無理な気がしますが(個人的メモ)。。
  • ECxの推定に必要なモデル選択って結構むずいですよ。
    • NOECの方が計算が簡単。

ちょっと後半だれたので,このあたりで。。


その他の個人的なコメント

  • この著者らは,ちょっと正規分布な世界に偏りがある気がする。でも統計専門家っぽいだけど。
  • LandisとChapmanの文章をひっぱりだすと,「濃度反応関係を報告する場合に(for the reporting of exposure-response)」という言葉が入っているけど*5,ここは濃度反応関係を(連続的な)統計モデルで推定できる場合に,とかであれば良かったのかもしれません。
  • 上に書いたように指摘は大事だけど,反論したいあまりに,ちょっと色々細かい議論を過大に言っている気もする。
  • NOECを使用することで,対応する影響の大きさが不明瞭になるというところは個人的に気がかり*6。どちらかというと,できるところはECxにして,x%はどうすべきかを考える方が将来的に有益な気がする。個体群モデル等の出番も出てきそうだし*7

*1:Chapmanはキレるイメージがあるので,この解釈でいいのかはかなり微妙。少なくともボクの印象はそんな感じ

*2:ボクも読んでてこれでいいのかなと思いました

*3:典型的に使われるx%

*4:そのエンドポイントが管理目標に対してどれくらい大事かが大事なんだけど,このあたりの議論は難しい。個体群存続とかで繋がるとかなりおもしろいと思うのですが,そこまでは科学が進んでいない

*5:訳は正確ではないかも知れません

*6:NOECで思考停止してしまう気もするし

*7:あれ,もしかしてこの点だれも指摘してないんじゃないかな。。