A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

Iwasaki Y., Kamo M. and Naito W. (accepted) Testing an application of a biotic ligand model to predict acute toxicity of metal mixtures to rainbow trout. Environmental Toxicology and Chemistry.

内藤さんに連れて行ってもらった,2011年(確か5月)のブリュッセルでのMetal Mixture会議から早もう3年が過ぎてしまいましたが,やっとその時にやった仕事(の一部)がET&Cにアクセプトされました。どちらかというと原稿自体は結構早くできてたと思うのですが,Metal Mixturesのセッション(特集号)として出すということで,他の原稿を待ってみんなで投稿したところで時間がかかったような気がします(が,いずれにしてもとてもいい経験になりました)。TippingとLoftsの論文は一足さきに受理されているようです。個人的にもう一報,この特集号に投稿しているのですが,そちらは再投稿可のrejectだったので,ちょっとまだわかりません。出版は全体の論文がアクセプトされてからのようで,おそらく来年の3月くらいになるだろうとの話です。


さて,内容ですが,金属の複合影響をモデリングするために作られた(とってもシンプルな)Kamo&Nagai(2008)のBiotic ligand modelをニジマスの急性毒性試験の結果に当てはめてみて,どんな感じか調べてみた,という感じです。(ある意味仮想のカルシウム)生物リガンドを想定していて,そこにくっついている金属の割合で毒性が予測できるというものです(カルシウムがくっついている量が減ると毒性が発現するというモデル)。リガンドは金属特異的なのか*1?イオンの競合はどこでなにと起きるのか*2?とか言い出すときりがないのですが,まずはシンプルなモデルで試してみましょうというものです。ちなみに,ボク自身あとから認識したのですが,このKamo&Nagaiモデルは厳密に濃度相加(strictly additive)のモデルと同じです*3


この特集号にはより複雑にした他のモデルの適用例,それらのモデルを比較した論文,といったものも載る予定です。この比較論文(査読中)の示唆が個人的に結構おもしろくて,当然ながらキャリブレーションされた複雑なモデルの方が当てはまりは良いのですが,結論としておおよそ当てはまり(や予測性)はモデル間であまり変わらず,かつモデルの複雑性を制限できるほどのデータが今のところない,と,結論づけられていました。そういう意味でも,このKamo&Nagaiモデルのような単純でベイシックなモデルが果たす役割はあるなと思っています。話が逸れてしまいましたが,ではKamo&Nagaiモデルはどうなん?というところなのですが,ざっくりとした結論としては,まずまずでしょうといった感じです。データ自体があまり綺麗じゃないというのと,金属の吸着係数を単純に既往の文献値を使っているという問題もあるので,厳密にはなんともいえない(否定も肯定も難しい)というのが正直なところです。このモデルから色々複雑にすることはできるので,そのあたり一歩一歩慎重に進めていく必要があるんだと思います。


あと,この会議に出て勉強になったことを簡単にまとめておくと,

  • この分野のある意味先端でされている議論が分かった。これが分かると,良い意味でも悪い意味でも色々見えてくる世界が変わってくる。
    • 例えば,WillやPeteと書いたAquatic Toxicologyの論文もこの会議に出てなかったら書こうと思いつかなかったはず。
  • みんな結構モデルを自由に作っている。驚き。
  • キャリブレーションして,それに使ったデータの当てはまりがほら増えたでしょ(当たり前),をよしとする人たちもいる。
  • 複合影響はメカニズムベースで真面目にやろうとすると,ほんと大変。

*1:本モデルでは全金属が競合する1種類のリガンドしか考えていません

*2:例えばカルシウムだけやなくて,ナトリウムも加えてはどうか?ということも考えられるのですが,このモデルではカルシウムだけです

*3:このあたりも勉強になりました