A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

有機汚濁河川における亜鉛の影響

Iwasaki Y, Kagaya T, Matsuda H (2018) Comparing macroinvertebrate assemblages at organic-contaminated river sites with different zinc concentrations: Metal-sensitive taxa may already be absent Environ Pollut 241:272–278 https://doi.org/10.1016/j.envpol.2018.05.041

新しく論文でました。でも結果自身はボクの発表をどこかで聞いたことがある人にとっては新しくはないのですが,これでやっと博士でやった研究がすべて論文になったことになります*1。なお,しばらくはここから無料で落手可能です。

で,肝心の内容はといいますと,地域スケールのデータ解析結果(神奈川県環境科学センターの底生動物データ+水質測定データ)と,独自に群馬県の河川で実施した小スケールでの野外調査結果をもとに,

  • BODが3mg/Lを超える有機汚濁地点ではそもそも出現する底生動物が少なく,金属に感受性の高いヒラタカゲロウ類やマダラカゲロウ類などは出現していなかった*2
  • 両調査結果から,このような有機汚濁が進行した河川で,亜鉛濃度が基準値を2倍程度超えても,底生動物の種数や個体数に顕著な影響は認められなかった

ことを示しました。結構地味な結果なのですが,いくつかimplicationsがありまして,

  • 有機汚濁が進行した河川においては,亜鉛濃度が基準値の少なくとも2倍以上高くても底生動物群集に顕著な影響を及ぼさない可能性がある。
    • 理由としては,私の既往研究からそもそもこれくらいの濃度でも大丈夫という可能性もありますが,本研究で示したようにそもそも感受性の高い種がいないことに加えて,BLMなどで言われている硬度や有機物の濃度が高いため毒性が緩和されることが挙げられます。一方で,有機汚濁+亜鉛の複合影響という可能性もあるとは思います。
  • 管理上は,有機汚濁河川において亜鉛に特化した対策を実施しても底生生物相の回復は見込まれず,より総合的に判断して対策を実施する必要がある。
  • あと,これは主に(国内での)問題意識であることと趣旨とはずれるため論文中では言及していませんが,このデータでは休廃止鉱山由来の汚染などは(ほとんど)ないため,亜鉛濃度が高い地点は有機汚濁が進行しており(BODが高く),BODの影響を考慮しないと,亜鉛の影響を過大評価することになります(バックドアは閉めないといけない:環境省が以前示した水国データの解析もこれができておらず,亜鉛の影響を過大評価している可能性が高いです*3)。
    • 個人的には,そういう残念な解析結果が堂々と基準値検討の際に出てきてしまうこと。委員会でその問題点が指摘されないこと*4。さらには,「こういう野外データが出てきて良かった」とさえ言ってしまう人がいること。あたりは,まぁもう10年以上前の話ですが,結構…と思います。

以上,現場を見ている虫屋さんからすると,至極当たり前なことなのですが,実はこういう結果はきちんと世に出ていなかったので,(地味に)重要だと思っています。総合的という意味では,Stream Mitigation Bankingとかの仕組みが参考にならないかなぁと漠然に妄想しています。

*1:あしかけ,ほぼ10年。なかなか感慨深いです。。

*2:これはある種自明ではあります。

*3:あまり言い切ることはしませんが,おそらくこれはもう間違いないと思っています

*4:これが最も深刻かもしない