A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

藻類や底生動物を使った水質指標関係の論文

適宜,追記していくかも。

辻彰洋, 小倉紀雄, 村上哲生, 渡辺仁治, 吉川俊一, 中島拓男, 2004. 珪藻試料を用いた酸性雨による陸水影響モニタリング. Diatom 20, 207-222.

環境学会で野崎健太郎さんにお会いして御相談した経緯で,著者に送っていただいた総説論文*1。指標(指数)を作ることの過程(の色々)や酸性度の生物指標の現状が書かれており,思慮深くて面白い。お恥ずかしながら全然知らなかったのですが,酸性化をテーマに色々な研究が行われている(いた)ことが分かる総説です*2。DAIpoに関する言及も出てくる。「ある場所で採集された死細胞を含めた試料をその地域の「群集(assemblage)」と解釈し,研究することが広く行われてきた...」なども,珪藻はまったく素人ですが,確かにそうですよね,と再認識したり。中身をよく理解されていることが伝わってくる総説。

大塚泰介, 2009. DAIpo(付着珪藻群集に基づく有機汚濁指数)が指標するものは明らかになったか. Diatom 25, 8-14.

DIApoでググって出てきた面白そうな論文。この論文もいわゆる因果構造みたいなのをきちんと考えていて,考察が深い。特に,Fig.2のECが見かけ上DAIpoと相関が良くなるのは,測定時の誤差に起因するのでは?というのは個人的に目からうろこの視点でした。歴史的な研究の文脈のせいだと思いますが,ザプロビ性とかDAIpoがどーんと立ち塞がっている印象を受けました。結局,「未だDAIpoの指標性に関する明確な結論は得られていない」とのこと。TKMRさん*3の意見?論文とかも引用されていて,きちんとフォローしていくと歴史が分かりそうな感じ。

渡辺直 (1995) 水生生物による河川の水質評価-歴史と課題-. 水環境学会誌 18: 932-937.

河川の汚染と生物指標の特集の巻頭記事。渡辺直(Naoshi)さんは,Kさんからの評価も高く,この記事の主張も筋が通っていてとても良い感じ。市川での調査とかもしていて,是非ご存命なときにお会いしたかったと思う方の1人。水質評価法の歴史が分かりやすくまとめられているのも個人的には良かった*4。ボク個人的に気になった文言は以下.

  • (前略)富栄養化という現象が,陸水学における本来の意味では一定の価値判断を含まない湖沼の遷移過程を示す言葉であったものが(後略)
  • 影響をみるためには,生物によるほかはない。
  • Belgian Biotic Indexの結果が行政上の政策決定に使われているという。
  • 多様性(指数)は,(中略)生物群集が受ける影響を解析する手段の一つとして用いられるべきものである。
  • 生物学的水質評価法を水質の一次検診として用いることが有効であるとし,何らかの異常をもった水域を発見するための手段として,現存量とともに多様性指数を用いることを提唱した。
  • (DAIpoなども指数)のいずれも,提唱者およびそのグループ以外に広く用いられるには至っていない。
  • しかし,ことは自己主張や相互批判が必要な研究レベルの問題ではなく,行政的実用化をめざして標準化しようとする話なのである。(中略)修正すべき点が出てくれば,個別勝手にではなく,統一的に修正すればよい*5

福嶋悟 (1995) 付着藻類の水質指標性. 水環境学会誌18: 938-942.

談話会で一度だけお話したことのある福嶋さんの記事。金属ではないが,こちらもタメになりそうな文言が色々ある。ここにもやはりDAIpoへの言及有り。

  • 生産者として生態系のなかで重要な位置を占める藻類も,水生動物に次いで指標として多く採用されている。
  • (河川の)藻類群集に占める珪藻類の種類の割合は他の藻類群に比べて多く,分類に関する研究も進んでいるため種の同定が容易である。
  • Roundは珪藻類を水質の指標とする以下のような利点を挙げている①すべての流水域に出現する ②採集が容易である ③感受性が高い ④世代が短く環境の攪乱に反応が早い ⑤物理的要因に影響を受けにくい*6 (以下略)などなど。
  • 汚れた環境に生育するものは良好な環境まで普遍的な分布をする傾向が認められた。そのため,評価はより良好な環境の指標となる環境適応性の小さい種類の出現(複数種)が基準となっている(福嶋 1989)。
    • (岩崎メモ)確かにこれは虫でもそうかも。こういう特性をうまく評価に取り入れられればいいのですが。。
  • 珪藻類の(有機汚染の)指標性について我が国で検討された結果は,多くの種類で一致しているが,ヨーロッパにおける指標とかかなり異なる。

高村典子 (1995) 河川の重金属汚染を教える付着藻類. 水環境学会誌 18: 948-953.

国環研の高村さんの記事。金属濃度の高い河川で実施した福嶋さんの結果も引用しつつ,金属濃度の高い河川で出現する種の情報もざっと整理されている。Takaramura et al. 1989など高村さんの論文も読むとタメになりそう。実験室で試験すると耐性獲得しているかどうかが調査できるというのは,藻類の強みではある(一方で多くの種が比較的容易に耐性獲得するのであれば,非常に濃度が高いところはおいておいて,特定の構成種の変化から”影響”を推定するのは難しいのかもと思った)。

*1:皆様ありがとうございます

*2:当たり前かもしれませんが,Steveの名前も引用文献に出てくる!

*3:お名前だけで面識はありません

*4:書きぶりをみても,海外の議論をしっかり丁寧に追っているなという印象を受ける

*5:こういう意見とかほんと大事だと思う

*6:原文を確認すべきですが,出水による物理的な影響というよりは,河川環境一般の物理環境という意味かなと想像します