A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

野外調査結果から得られた亜鉛の水質環境基準への示唆

WASPに受理された論文がオンライン公開されました*1。内容はというと,2007年に兵庫県の市川及び越知川で行った底生動物調査結果を報告したものです。学会発表だと,2008年3月の水環境学会で口頭発表した内容の改変版ですね(簡単な要旨はこちら)。。特に,亜鉛濃度が100μg/L程度(正確には80-126μg/L,水質環境基準値の3倍程度)の3地点での底生動物の応答に着目したもので,かなり高濃度の汚染地点だと底生動物の種数や個体数(以下,指標)が大きく変わっているのだけれど,これらの3地点だと重大な影響*2が観測されない場合が多かったことから,本調査流域において,底生動物群集の種数や個体数の保全を考えるとおおよそ100μg/L程度の亜鉛濃度は大きな影響は及ぼさないのではないかという結論を導いています。「重大な影響はない」と実際に言うのは難しいのですが,ここでは,注2のように定義して,議論を進めています。先日書いた,equivalence testとかをここで使おうと思ったのですが,結局「重大な影響はない」という範囲を決めるのが難しく断念しています。
苦しさは重々承知しておりますが,とにかく,きちんと論文になって良かったです。別刷り,喜んでお送りいたします。疑問や質問,反論もyuichiwsk[at]gmail.comまでご連絡下さい。

Iwasaki, Y., T. Kagaya, K. Miyamoto, and H. Matsuda. in press. Responses of riverine macroinvertebrates to zinc in natural streams: implications for the Japanese water quality standard. Water, Air, and Soil Pollution.

*1:おそらく印刷されてページ番号がつくのは,しばらく後になりそうです。9月以降?

*2:非汚染の平均値と比べて"有意"な違いはなく,かつ,底生動物指標が非汚染の最大と最小の範囲に入っている場合とここでは定義しています