A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

マイクロプラスチック関係のお勉強

諸事情により,マイクロプラスチック関係の生態リスク評価(特に有害性評価)あたりについて,関連論文を読んで理解を進めていくことになりそうなので,個人的なメモを残していく(多分第一弾)。主に,有害性評価まわりについてのメモですので,あしからず。

日本学術会議(2020)提言「マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス」*1

まずは,この4月に出た日本学術会議の提言。誤解を恐れずいうと,少し煽り気味だなぁという印象*2。ということで,今後の課題を把握するにはいい報告書かと思います*3。リスクという名前がついている分科会なのに,既往のリスク評価の結果の引用が少ないところも気になります。まぁでもいくら引用してもメッセージは同じかもしれませんが。
[追記]
有害性まわりだと,マイクロプラスティック粒子を介した化学物質の曝露推しの提言になっているのですが,このあたりの総説もいくつかあって,その結論とかもきちんと引用して,もっとバランスのあるものにすべきだったでしょう*4

Backhaus T, Wagner M. 2019. Microplastics in the Environment: Much Ado about Nothing? A Debate. Global Challenges:1900022. DOI: 10.1002/gch2.201900022.

リスク評価という意味でも,個人的にとても面白い。ボクの理解では,Martin Wagnerさんは,マイクロプラスティック関係の毒性試験とかの結果をどんどん出しているひと。それに対して,Thomas Backhausは有害性評価よりの化学物質の生態リスク評価の人。Allen Burtonさんが出したES&TのViewpoint*5に,反応して始まったエッセイのやりとりです。オープンアクセス。ちょっと口語調なのが読みにくい感じもしますが,比較的スラスラ読めました。おおざっぱなメモは以下の通り。

  • アレンの「曝露がそもそも少ないし,リスクの懸念はないでしょ*6」に対して,マーチンは「単純化しすぎ*7」トーマスは「リスクが誇張されていることに同意」している。
  • 現状の簡易な判断では,リスクは小さいことには二人は合意しているようだが,マーチンは将来の曝露量の増加や「プラスティック問題を解決するいいタイミングとしてもよい」という意味で,予防的なスタンスをとっている。
  • また,学術的な知見が足りないことや,既出の毒性試験のやりかたに問題があることにも合意している。
  • 結局,アレンのビューポイント記事に対する二人の意見のずれは,現状のリスク評価のやり方をどれくらい信用しているの違いやこの問題に対する予防的なスタンスの程度の違い,に起因しているように思った(個人の感想)。
  • 物理的な影響を調べるのであれば,コントールに自然起源のparticlesを入れて評価すべきでしょ,ここをNull hypothesisとして出発すべきでしょ,というトーマスのコメントには,ボクは強く同意する。
  • レビュー論文などの表現を「こんな結論言えないでしょ」と具体的に取り上げているのも面白かった。すなわち,科学的な知見でまだ仮設レベルの話を,確定事項のようにいう誇張はよくないよね,というのは,エッセイでも出てきた。

Connors KA, Dyer SD, Belanger SE. 2017. Advancing the quality of environmental microplastic research. Environ Toxicol Chem 36:1697-1703. DOI: 10.1002/etc.3829.

P&Gの皆さんにより,マイクロプラスティック*8の曝露及び有害性評価に関するCritical Perspectives論文。これを読むと,現状のデータには色々問題があって,うーん,もう全然だめじゃんとか思ってしまったのですが,きっと今は改善されていると信じたい。

  • 影響メカニズムがわからないので,particle/Lとmg/Lの両方が計算できるようにしておくべき。
  • 5mm未満より小さいsolid particleと定義されている。下限については,いくつか提言はされているが,まだ合意できてない?(この論文の段階で)
  • カオリン粘土のSSDが推定されている。非致死的なエンドポイントで,HC5は36 mg/L。
  • その他実験条件などは,ひとまず省略。

*1:引用の仕方不明

*2:別の機会で,だいぶ前に,某方が「学術会議が査読付きではない結果を引用して…」と批判していたのをふと思い出しました

*3:繰り返しますが有害性評価まわりしか真面目に読んでいません

*4:色々言いたくなりますが,とりあえず(略 私見でざっくりいうと、おわ・・・る

*5:Burton GA. 2017. Stressor Exposures Determine Risk: So, Why Do Fellow Scientists Continue To Focus on Superficial Microplastics Risk? Environ Sci Technol 51:13515-13516. DOI: 10.1021/acs.est.7b05463.

*6:ここ不正確かも

*7:既往のPEC/PNECの枠組みを使うことに懐疑的

*8:マイクロファイバーは除外