A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

環境基準のThe good, the bad and ugly

Chapmanさんおそらく最後のコメント論文(といってもShort Commentary)を眺めて,ESPRの記事も見つけたの合わせて,メモ。

Chapman, P.M., 2018. Sediment remediation can include no action. Ecotoxicology and Environmental Contamination 13, 1–3.

まず,ブラジルの生態毒性学会?のようですが,基本汚染土壌のレメディエーションにおける評価に関するコメント。受理が亡くなられた後なので,もしかすると最後まで面倒見れていない論文なのかも。雑多に拾い出してみると:

  • contaminationとpollutionの使い分け
  • 底質環境基準*1や他の基準は,保守的な(安全側の)傾向がある。基準より低ければ懸念される影響はない*2といえるが,基準より高いと影響がある可能性が懸念されるだけで(of possible concern),明白な影響が予想されるわけではない(not certain concern)。
    • 訳が微妙ですが,これ重要で,ESPRの論文が引用されていたのでそれも読むことにしました。
  • contaminated sedimentがpolluted sedimentなのかどうかを決めるには(基準値による判断だけではなくて)追加の生物学的評価が必要。
  • メディエーションが必要と判断するための4つの要因は,ヒト健康リスク,急性毒性(生態毒性),生物濃縮の可能性,より深い汚染された底質の撹乱の可能性と曝露としている。
    • なぜ急性毒性だけなのか,ちょっと不思議ではある。
  • 簡単な場合分けも書いてあるけど,おそらくポイントとしては,no actionもありうるよ,という話だと思う。

Chapman PM (2018) Environmental quality benchmarks: the good, the bad, and the ugly Environ Sci Poll Res 25:3043-3046 doi:10.1007/s11356-016-7924-2

環境基準(原文では,Environmental quality benchmarkなのでEQBと訳します)の活用方法について,良い点,悪い点,醜い点についてChapmanの整理が載っています。環境基準は便利だけど,完全ではなく,評価や意思決定に必要な生物学的・化学的情報を提供できる完全で単一なツールも存在しない,というのがポイントでしょうか。かなりえいやでまとめましたが,いつもどおりメモとして:

  • 良い点の段落で議論されていること
    • EQBを超えていなかったら無視できるconcernで,超えていたらpossible concern*3
    • 適切に導出されたEQBは,化学物質や物理的・生物的ストレッサーを含む潜在的なストレッサーを特定するのに役に立つ。
    • EQBのみで最終的な意思決定をすべきではなく,EQBの不確実性や他のストレッサー(による影響)も考慮すべき
    • 希少種などでない限り,我々は個体群や群集を保護しているということを認識しないといけない。
    • 場所特有のEQBを導出することは”よい”ことじゃ。
  • 悪い点で議論されていること
    • 悪い誤解は,EQBは絶対的なものだという認知,EQBのベースとなっている室内毒性試験が現実の世界における結果を提供しているという思い込み,相関は因果だという思い込み(EQBの超過が生物影響を説明する),EQBがすべての生物個体を保護するという思い込み,の4つ。
    • 具体例が論文を引用しながら紹介されている
    • 室内試験もそれ本来のばらつきがある。
    • Burton先生も室内試験ベースのガイドラインは過度に安全側だといっている*4
  • 醜い点で議論されていること
    • EQBの不確実性には4つの元があって,ヒューマンエラー(試験の時のQA/QCとか),不十分な知見,現実世界の単純化,確率性(自然変動)。最後のはコントール不能。真ん中の2つはエビデンスの蓄積で減少させることができる。
    • EQBの修正の機会が限られているのはuglyだ。
    • 環境の複雑さは認識され,配慮されなければならない。無視されたり単純化されたりすべきではない。
    • EQBはスクリーニングには使えるが,他のエビデンスを考慮しないでdefensiveな意思決定には使えない。
      • 超えていても実際の生物学的な影響があるとは限らない

*1:細かくはいろいろありますが,guidelineとかbenchmarkとかすべて基準と訳しています

*2:not likelyなので正確にはなさそう

*3:訳しづらいのでそのまま

*4:ただし,底質が念頭にあると思う