- 作者: 及川敬貴
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2010/09/09
- メディア: 単行本
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ボクの大好きな*1及川さんの本。博士論文を書籍化した方は読めなかったでしたが,こちらは大分一般の人を意識していて読みやすい。僭越ながら,独断と偏見により掻い摘んで少しだけ感想を書いてみたい*2。以後,偉そうに書いておりますが,簡潔さのためにそういう表現にしています。お許し下さい。
■買いです。
最初に結論を書いておきます。買いです。及川さんが常日頃から言っていることが謙虚に,かつよくまとまっていて,とても良かったです。法制度がいかに重要か,非常に分かりやすく書いてあると思います。議論が丁寧なので,少し冗長に感じるところも個人的にはありましたが,十分な引用文献も示さず,断定的に議論が進む本が多くある中で*3,とても好感が持てます。
■タイトルがイケテル
『生物多様性というロジック−環境法の静かな革命』。タイトルもそうですが,サブタイトルもなかなか挑戦的です*4。でも,読めば納得です。ちなみに,このタイトルにも表紙の絵も,本人は不本意のようでしたが,ボクはいいんじゃないかと思います。
■法制度の大事さ
無知なボクは,法制度の大事さというのは,「なんとなく大事そうだけど,よくわからない」程度でしたが,以下の及川さんの記述が印象的です。
ほとんどのパワー(いわゆる権力)は法に書き込まれて初めて使うことが許されます(法の目的の達成に必要な限りにおいて)。p32
自然資源の利用に関係する法律には,開発促進や産業保護を目的としたものが多く,それらは資源の持続不可能な利用を後押しすることが少なくありませんでした。p61
逆説的に聞こえるかもしれませんが,生態系にこうした変化をもたらしてきた主要因が法律であるからこそ,本書でとりあげている法制度の変化とその含意についてもっと注目し,(後略)p63
とのように,少し掻い摘むだけでも,「あ,確かに法制度って大事そうだな」と感じられる気がします。
■アメリカにおける環境諮問委員会(CEQ)の役割と位置づけはおもしろい(p113以降)
日本の環境省にあたる米国環境保護庁とは別に,行政府の中にあるCEQ,その役割や位置づけはとてもおもしろい。日本でたとえると,ボクの理解では各省とは別に,内閣府の中に環境政策の司令塔がいるというイメージ(多分)。省庁横断型のリーダーシップと省庁間の紛争の調整機能。ここは,この本において多分そんなに推すべき所ではないかもしれませんが,ボク個人的にこの仕組みはとても興味深かったということで,書いておきます。
■生物多様性保全というプラットホーム
生物多様性の保全という目的の下,多くの人々の対話や法制度の再構成が可能になっているとのこと。各国の生物多様性戦略の比較やその後のニュージーランドの事例の話もおもしろかった。
以上,ここに書いたのはほんの一部ですが,このような内容について言及し、最終的には生物多様性地域戦略の作り方への提言とまとまります。丁寧で優しく,でもその本質には熱いものが感じられる,良い本だと思います*5。
以下は,個人的メモ...
□気になるところ
生態学っぽい記述は少し気になる記述がありました。他にもあったかもしれませんが,例えば,
交雑が起こって,種の分化という進化のプロセスが止まってしまうかもしれません。
それが良いか悪いかは置いておいて,種の分化はどちらかというと進むと思われます(多分)。逆説にいえば,分野間の協働は不可欠だとも認識できます。
□誤植
- p21 及川 2003が引用文献リストにない
- p32 下から4行目の最後の文字がずれている
- p84 定性的→定量的?