リスク評価勉強会に参加してきました。今回は,同志社大の中谷内さんの講演があるということで,行かないわけにいかないということで。以前に読んだ,中谷内さんの本はとてもおもしろかったし,その本の中身を紹介したプレゼンが思いの外好評だったので,一度は会ってみたい方でした。忘れないうちに。
安全。でも、安心できない…―信頼をめぐる心理学 (ちくま新書)
- 作者: 中谷内一也
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2008/10/01
- メディア: 新書
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勉強会自体は,最初に中谷内さんの講演があり,その後,震災で出てきたリスク関連の話題を自由討論しようという感じ。中谷内さんのお話は基本的に上の本に書いてあったことが簡単に紹介されていたと思います。すごくおおざっぱには,リスコミ→二重過程理論→スロビックの恐ろしさ因子と未知因子(2因子モデルと書かれていたような・・・)の話といった感じでした。内容は本に譲るとして,以下は気になった点を箇条書き的に(いつも通り,個人的メモレベルです。ご利用は自己責任で)。
まず,語弊を恐れず言うと,中谷内さんは,とてもおもしろいおじさんという感じでとても良い感じの人*1でした。講義を一通り受けてみたいものです。
- リスクコミュニケーション(相互の意見・情報交換)は説得的コミュニケーションとは異なる
- すなわち,リスコミとは相手を説得するために行うものではない*2。
- 説得的コミュニケーションの研究?から出てきた御利益のある言葉は,「説得の意図が見えるとダメ」
- Small et al. (2008)の寄付の話は面白かった*3。
- あくまで1つの説明ではあるが,「安全と安心」とか「安全・安心」と並列に書かれるのは,安全だけでは安心を得られないせいかもしれない。
- 一次的バイアス:低い確率は高く,高い確率は低く見積もる傾向がある
- たまたま(最初に)示された値にひきづられる*4
- Slovicの有名な2因子モデル図で,米国と日本を比べている研究がある。原発や核の未知因子の値が日本では低いとかなんとか*5。
- 良い手立てがあるならば(〜さえすれば〜は回避できると信じ込ませることができれば),先に脅した方が(おそらく,信じ込ませる)効果が大きい。
- よくわからんときは,他の人(の情報)を確認する(周辺効果と呼ばれるようです)
- 例えば,「人が来ない」という観光地の感情にアピールするメッセージは,逆に(自分以外の)他の人も来てない(ので自分も行かない方がよいかも)という情報を与える。
第2幕は,リスク論のあり方みたいな題材でディスカッションでした。正直,岸本さんのプレゼンはふわふわした話題があって,ダレた感はあるのですが,その後のディスカッションはおもしろかったです。以下も同様に,箇条書きメモ(以下は,個人的意見も入ってごちゃまぜ感があります)。ゴリゴリまとめているので,変なところが結構あるかもしれません。
- リスク評価に基づく意思決定を一般の方にどの程度求めるかという話
- 定量的なリスクは大事だけど,必ずしも真値とはいえないし,そもそもそういう使い方に向いていないかもしれない。政策の比較には使えるが,実際のリスクの理解にどの程度使えるかというは,実はよく分からない(使えないのでは?)という話もあったような。
- 基準値の解釈に対する誤解があるのはよくないし,それは減らす努力は大事だと思う。あまりその点に拘りすぎるのは,良くないと思う。
- 一般の人が「リスク」で判断でていないというけど,ボクも自分で定量的にリスクを計算したりはしなかった。
- それを補うために,定量的なリスクをきちんと専門家の人が提示するのも大事だと思う。
- 後は,「リスク」で判断できていないとか,「リスク」を説明した人はいなかったとか,なんか色々問題提起がされていたけど,実はそれ自身はあまり大きな問題を引き起こしていないのではないかと思った*6。それよりも,実際に「リスク」で判断できなくて問題となったことはあるのか?その理由はなにか?どうやったら回避できたのか?などをまとめて,教訓化するのが良いように思った。
- 実際にリスクが無視できないと感じるレベルであるというのが,原発の問題の難しいところ*7。
- どうも理想論から入ると,話がふわふわしている感じがして気持ち悪かった*8。
- リスク=被害の大きさ×発生確率
- 専門家と信頼
- 専門家の力量*9自体は,一般の人には判断できない。
- そのため,その専門家に対する信頼性が重要になってくるが・・・
- 信頼を得られるかどうかは,どうも「同じ事態に感情を共有している。ように見えるかどうか」が大きな影響を与えてそう。との話。
- と考えると,感情に訴えるのが得意でない研究者は不利かもね,と冗談交じり。
- 安全と危険の二分化
- 安全か危険かの二分化してはダメというけど,実際には,ダレもが大丈夫か大丈夫じゃないかを判断して行動しているんじゃないかなぁと思った。
- 結局は,システム2の情報(統計情報,定量的なリスク情報)をシステム1(迅速な判断の方)で理解できるように翻訳する必要があるのではないか?との意見。
- 色々考えて,自己規制してしまう
- 岡さんの「覚悟を決める」という表現は,良かったなぁと思い出した。
- 規制科学
- どこまでが純粋な科学で,どこからが仮定を必要とする規制科学なのかを区別する必要がある*10
- そういう説明ができる専門家がTVとかに出てこなかった。
*1:ゆるい雰囲気もあり,個人的に大好きなタイプの方
*2:このあたりはTKDさんから聞いていた話
*3:正確な出典は未確認,どっかで見たことあるのだが,どこだっけなぁ
*5:図の相対的な位置が低い位置にあったという説明だったと思います
*6:信頼は損ねたと思うけど,多少の誤解があっても,それなりにうまく回っていたとも解釈できるかもしれない
*8:禅問答は嫌いではないですが
*9:例えば,どれくらい科学的にまともなことを言っているか
*10:ボクらの分野では至極当たり前な気もしますが,確かにこういう整理はきちんとできるといいですね。純粋な科学と規制科学の違いも実はそんなに明確ではない可能性はありますが