A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

LCIA

Fantke P, Huijbregts M, Margni M, Hauschild M, Jolliet O, McKone TE, Rosenbaum RK, van de Meent D (2015) USEtox® 2.0 User Manual (Version 2)
Tutorials / Manuals | USEtox®

Life cycle impact assessmentあたりで(特に影響評価まわりで)何をやられているか、少し理解したいなと思って、USEtoxのManualを眺めてみたのですが*1、いい感じにざっくり説明でわかりやすかった*2。他にも、種の感受性分布(SSD)のHC50(すなわち、SSDの平均値)がこういうところに使われているのか、とか、ChronicのEC50とかも欲しい人がいるんだな、というのがしれて面白かった。自分の研究に繋げられるかというと、ちょっとではあるのですが。。。

Pierrat E, Barbarossa V, Núñez M, Scherer L, Link A, Damiani M, Verones F, Dorber M (2023) Global water consumption impacts on riverine fish species richness in Life Cycle Assessment. Science of the Total Environment, 854: 158702
Pierrat É, Laurent A, Dorber M, Rygaard M, Verones F, Hauschild M (2023) Advancing water footprint assessments: Combining the impacts of water pollution and scarcity. Science of the Total Environment, 870: 161910

関連して、これらの論文を眺めてみた。細かいところまでは理解が追いつかないけど、個人的な見解だと、評価自体はざっくりということは理解できた。こういう評価でも適材適所できちんとニーズがあるし、おおざっぱに評価したい場合には役に立つというのは一応理解しているつもりです。個人的に、前者の論文で、過去の共著論文が

"Species richness is generally associated with river flow via statistical regression, and the actual cause-effect relationship is more difficult to interpret (Yoshikawa et al. 2014)"

と引用されていて、「まさしくそのポイント、ボクが拘って論文に手を入れたところです!」、と思い出してちょっと懐かしかった。少しずつ改善しようとしているポイントがありつつ、果てしてその「改善」ってこのレベルの評価でどれくらい意味があるの、というのは、頭にいれておきたい。

*1:USEtoxを実際に使ったわけではないけど

*2:評価自体もざっくりではありますが

社会を知るためには

ぱっと目についたので買った程度なのですが、ささっと読める軽さで、面白かったです。個人的には、(本文の該当部分が見つからないけれども)構造、システム、規則、ルール、人間関係も過去から積み上がってできて、絡まっている複雑な社会に我々は放り投げられているというイメージが湧いてきたのが印象的でした。そんなこと当たり前と言われればそうなのですが、なんか薄々と感じていたこれ無理じゃないかな?みたいな部分を、あーそういう前提でいいのですね、という感じで、腑に落ちた感じです*1。あと、そういう前提のもとで、量的なデータから全体について俯瞰するような研究と、個別の事例を質的に捉える研究の役割の違いとかにも触れられていて(たぶん)、それも面白かったです。もうちょっとこういう方面の本を読んでみたい。

*1:例えば、第一章の「「社会のことはわからないことだらけ」というのは説明の放棄ではなく、社会を理解することの出発点の確認だ」とか。

統計学的に有意ではない影響濃度(NSEC)の提案

Fisher, R., Fox, D.R., 2023. Introducing the No-Significant-Effect Concentration. Environ. Toxicol. Chem.

対照区(コントロール)のばらつきを考慮して、「影響のない」濃度を決めようという提案。こういう考え方は重要だと思うし、提案自体はあってもいいと思う*1。一方で、少し複雑なので多分普及しないだろうなぁというのが個人的な感想。2点細かいメモを残しておく:

  • NSECの場合、回帰線の不確実性に加えて、モデルの切片(対照区の応答)の不確実性も含まれるのことになるのが気になる*2。と考えると、EC10とかシンプルでいいのではないかと思う。試験法自体も完全な無影響であることを保証するものでもないわけだし。。。(と思ってしまう)
  • ECxは影響がある濃度なので、SSDのコンセプトに合わないという表現が散見されるけど、これは個人的にあまり好きではない。そもそも閾値を仮定しない限り、実質的にNSECだってNOECだって実質的に「影響がある」濃度になりうるわけだし、SSD全体の課題みたいなのを考えると、そもそもこういう細かいところに拘るのは賢明じゃないと思う*3

*1:実際に20年くらい同じET&Cで同様の提案があったとのこと

*2:この点は、ECxのx%の推定にも不確実性が含まれていることに気づいたので、訂正します。ごめんなさい。浅はかでしたm(_ _)m

*3:NECに拘る、オーストラリア方面で行政的にこういう対応が必要なったということなのかもしれませんが

生物多様性目標における化学物質の対象範囲を拡大する

Sigmund, G., Ågerstrand, M., Brodin, T., Diamond, M.L., Erdelen, W.R., Evers, D.C., Lai, A., Rillig, M.C., Schäffer, A., Soehl, A., Torres, J.P.M., Wang, Z., Groh, K.J., 2022. Broaden chemicals scope in biodiversity targets. Science 376, 1280-1280.

Scienceではあるけど、短いLetter。タイトルに惹かれて読んではみたけど、目新しい情報はなかった。新しい視点というより、現状の流れとかをざっと「Advertise」するという意図で書いているんだろうなぁと想像します。

米国の河川底生動物の長期変化

Rumschlag, S.L., Mahon, M.B., Jones, D.K., Battaglin, W., Behrens, J., Bernhardt, E.S., Bradley, P., Brown, E., De Laender, F., Hill, R., Kunz, S., Lee, S., Rosi, E., Schäfer, R., Schmidt, T.S., Simonin, M., Smalling, K., Voss, K., Rohr, J.R., 2023. Density declines, richness increases, and composition shifts in stream macroinvertebrates. Science Advances 9, eadf4896.

Travisさんとか含めて、SETAC関係でもよく見かける方々共著者にはいったScience Advancesの論文。米国全体の広域データで、正直本文+付録ちょい読むくらいでは、身をもって理解した感じにはならないんだけど、1993年から2019年までのデータを使って、タイトル通り、密度は減少して、分類群数(属レベル)は増加した・・・とかという内容。解析の開始年が、1993年くらいからだと、化学物質汚染とかも少し改善されてきている気がするのがちょっと残念なポイントでしょうか。しかし、これくらい大きいデータで、色々調整していたりするので、もう回帰で捉えられてる傾向がどれくらいそれっぽいのか、よくわからない…と思ったり。

深層学習の原理に迫る

120pくらいしかないのでさらりと読めて、むしろなんかちょっと物足りにない感じはなくはないんだけど、過剰に増えたパラメータがむしろoverfittingを防ぐ(overfittingにならない)というところの数学的な説明*1が、たしかにそうなるなぁと面白かったり、ニューラルネットワークってこういう中身だったんですね、と今更ながら勉強になったり。深層学習ってぶっとんでて、数学がそれに追いついていないって現状自体も、面白い。

*1:というほど難しい説明では全然ないんだけど

AICによるモデルアベレージングと予測

意訳すると、「ひやっほーい。種の感受性分布(SSD)の分布にどの分布を選択したらいいかわからない!って問題があったけど、モデルアベレージングを使えば、これで解決やで。んでおれらはこれ使ってSSD書くぜ*1」みたいな論文に出会って、「うへぇ」ってなっていたのですが、そもそもモデルアベレージングについて、なんとなくAICによるweightによる計算方法はイメージがつくくらいで、よく知らないなぁと思ったので、いくつか文献を読んでみた。

Schwarz, C.J., Tillmanns, A.R., 2019. Improving statistical methods to derive species sensitivity distributions. Water Science Series, WSS2019-07, , Province of British Columbia, Victoria.

まずは、モデルアベレージングがよい!の根拠として、引用された文献がこれ。Rのパッケージでssdtools*2を作っているカナダのグループの報告書。確かに、モデルアベレージングがデータが追加されてもStableな予測値を出す、みたいな結果があるのだけど、限られたデータセットをベースにした解析だし、しかも判断は図で視覚的に…という感じで、主観的。あと、stableという点において、accurateかどうかは問題としていないことにも注意が必要。どちらかというと、insensitiveがもっとfairな表現じゃないかなぁと思ったりもする*3。また、この調べ方も、新しい毒性データを追加して、再度モデルを推定し直しているので、それじゃあパラメータもweightも全部変わるやん、と思うので、このあたりもなんとなく気持ちが悪い。前段として、異なる分布が同程度によくフィッティングする状況が分布の選択に困る場面として想定されているけど、個人的には、「いや、だからそれはもう多分どの分布で推定してもHC5一緒やで」とツッコみたくもなったり。
ということで、総じて、この文献をベースに、「モデルアベレージング最強やで」とグイグイくるのは...(以下略。

Dormann, C.F., Calabrese, J.M., Guillera-Arroita, G., Matechou, E., Bahn, V., Bartoń, K., Beale, C.M., Ciuti, S., Elith, J., Gerstner, K., Guelat, J., Keil, P., Lahoz-Monfort, J.J., Pollock, L.J., Reineking, B., Roberts, D.R., Schröder, B., Thuiller, W., Warton, D.I., Wintle, B.A., Wood, S.N., Wüest, R.O., Hartig, F., 2018. Model averaging in ecology: a review of Bayesian, information-theoretic, and tactical approaches for predictive inference. Ecol. Monogr. 88, 485-504.

ついでに、より一般的な文脈でのモデルアベレージングについてのレビューも参考に読んでみた。メモなどは以下の通り。数式は読み飛ばしているので、内容は是非ご自身でご確認下さい。

  • モデルアベレージングをする際に必要なってくるweightの推定自体に不確実性が発生する。このあたりは、恥ずかしながら、頭になかった。
  • 一方で、選択されたsingle-best modelを使った予測だと、どのモデルが正しいのかという点における不確実性が予測に含まれてないので、真の予測誤差を過小評価する。とのこと。
  • 一般論ではあるが、「信頼区間」のカバレッジは、モデルアベレージングによって、改善する”かもしれない”。という記述自体からも、モデルアベレージングがsilver bulletではないことが読み取れる。
  • 結論にも、「モデルアベレージングは、予測誤差を減少されるかもしれない、しかし、かならずしも減少するとも限らない」とも書いてる。
  • AICによるweightsを、確率のように扱っていいのか、という点についても、議論を呼ぶところですよと書いてある(すなわち、そもそもそのweightでいいのか、問題がある)。AIC weightsとブートストラップによるモデルweightsが本質的に違っていた(Burnham & Anderson 2002)という事例もあるとのこと。
  • 一方で、BICの方は、真のモデルの存在を仮定するので、そのモデルが真である確率、みたいなものをすんなり計算できそう、とも思った(これは感想)。
  • オススメ!自体は、最後のOverall conclusion and recommendationsを読むといいと思います!

*1:もちろん、あおり気味

*2:Rユーザーとしては、こういうの待ってましたというパッケージではあります

*3:さらに邪推すると、行政的には、stableな方が説明しやいという側面はあるのかもなぁと思ったり