A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

読了したので場所を移してみました。

緑の水利権 (武蔵野大学シリーズ9)

緑の水利権 (武蔵野大学シリーズ9)

某勉強会で頂いた本(野田さま,ありがとうございます)。未読ですが,環境流量とかちょっと絡んだボクとしては,おもしろそうなお話です*1。謝辞に魂がこもっていて,素敵です。読むスピードが遅いのですが,少しずつ読んで,また感想を書きたいと思います。

私のこれまでの研究から言えることは,いまを解決するためには歴史を知る必要があるということである。歴史的所産に縛られる必要はないが,それでも政策提言を考えれば考えるほど,歴史を研究しなければならない。

## 読了(2012/08/22)
誤解,知識不足,不慣れ,などの理由により不適切かもしれません。ただ,素直に書くことにします(適宜,コメント等下さい)。
雑多な感想

  • OさんのD論の本もそうだったけど,不慣れなボクには読むのにちょっと根気がいるし,時間がかかる。ただ,Oさんのやつよりは,読みやすいかも*2。野田さんにお会いしてなければ,途中で断念したかもしれません。
  • と書きましたが,内容はとても興味深いですし,勉強になります。特にボクが環境流量*3周辺の研究をしたり関連論文を読んだりしたので。
    • と書きましたが,読んでいくとそのまま数日で読み終わってしまった。渡米中のなせる技か。
  • 法的な話とは大変疎いので,結構流し読みしているところもあります。

個人的に目にとまったところの内容の雑多なメモやコメントなど
オレゴン州の流水権制度

  • オレゴン州の事例で,水利権と流水権*4を分けて,しかも"法的に同等"であるというのはとてもおもしろい*5
  • 「水資源局は歴史的にみて,水利権保有者間の争いを解決することにその主眼を置いてきた。そのため,できるだけ多くの水利権を許可しようとしてきたのである。後略」(p78)
  • 関係ないけど,なぜ部局名とかにFish and Wildlifeってのが多い?*6のだろう。今居るコロラド州立大学のDepartmentもFish, Wildlife, and...だし。よっぽどみんな魚が好きってことなんだろうか。なんか伝統的な理由があるのだろうか,ちょっと気になる。
  • オレゴン州の流水権の権利証書例の保護水量(p88)は,どういう情報をもとに具体的にはどういう風で決まっているのが気になる。
    • 単に他の水利権や流水権との兼ね合いで決まっているのが?それとも対象生物についてのなんらかの生態学的知見を使っているのか?。
  • 流水権は,水資源局*7が州民からの信託を受け,管理するという関係(p95)。
  • 「流水権は河川に水を留まらせる権利であるので,流水権の保護区間よりも下流にある水利権保有者は,上流に流水権が設定された方がより安定的に取水することができる。」(p96脚注)
  • 「水利権Aを流水権に転換した方がよい」(p108)は,"プライオリティーの観点から見ると"なんて言葉があった方がよいような気がしました。
  • 第3章あたりで,言及されている考察にたどり着くには,リターンフローを決まり方が結構大事なような気がしたけど,そのあたりどうなんだろうと思いました。
  • ジョンディ川の例にして,中央値を使って解析,
    • 流水権にある「最低限必要な流量」から考えると,中央値で良いのかちょっと不明でした。
    • また,秒単位の水量で設定されている保護水量が具体的にどういう時間スケールで適用されるものなのか?も気になりました。
    • 実際,挙げられている例では結構シビアな状況のようで,それが達成されなかったときに,罰則とかあるのかなぁとも思ったりもしました。

英国における水利権制度

  • 不文の慣習法であるコモンローというもので管理されていたよう。
  • 「沿岸権(riparian rights)の基本的な発想は,河川の量と質をできるだけ変えないような利用のみを認める(後略)」(p132)
  • 「水質保全を担当する地方衛生当局自身が主要な汚染排出源であり…(後略)」(p135)
  • 最低維持水量というのが(1963年水資源法),4章に出てくるが,生態系の保全は入っていない。
  • 慣行的権利の場合,ライセンス料金はいらなかったということ?(p144周辺)
  • どれくらい水を使っているかを把握するため,ライセンス制にしたというのはおもしろい。
  • 「(オレゴンの)専用権制度とは異なり,渇水時の配分ルールはプライオリティー*8で決まるわけではなく,どちらかといえば不明瞭なままであった」(p155)
  • EU生息地指令やEU野鳥指令,EU水枠組み指令が,英国の水利権制度をグリーン化させる,いわば「外圧」として機能してきた」(p161)*9
  • 「取水利用が重要な環境破壊を引き起こした場合」(p163)といった感じで,同様の文脈で環境破壊が出てくるけど,実際はこれがどういう風に定義されているのか,個人的には気になった。
    • p168に「現在の取水がすでに低水時に重大な環境破壊を引き起こしている状態」ともある。
    • p175には「政府は,深刻さはその状況に依存するので,法律の中で決めるのではなく指導の形を取るべきだ…(後略)」ともあります。
  • 環境庁が担うのが水利権だけではなく,排水対策,治水,漁業管理,舟運といった全体を指している」(p167)
    • こういう風に広く扱っているのは,日本と全然違いますねぇ。
  • ライセンス管理の行政負担を減らすために,例外利用の範囲を広げたというのもおもしろい。
    • この点を野田さんは,「制度の近代化という視点からすれば,誰が,どの程度,何のために水を利用するのかをあらかじめ決めておき,権利内容を明確に規定することで,行政は利水をより確かなものにしようとしてきた。今回の改革はこの流れを変えることにも繋がるかもしれず…(後略)」と考察している(p193)。
  • しょうもないですが,議事録の引用で名前の後に"卿"がついているのが新鮮でした。
  • 補償の枠組みを緩和後に,ライセンスを強制収用するのは,具体的にどういう場合かちょっと浮かばなかった(p177あたり)。

まとめの章

  • 環境用水を保護するために,オレゴンでは新しい権利(流水権)を設定したのに対し,英国では権利は作らずライセンス管理の導入・修正で対応した(岩崎理解)。
  • 水田の生態系サービスのところはピンと来なかった。ボクの理解不足か,ちょっと思考回路が異なるのかも知れません。

誤植?
ボクの理解不足で,誤植ではないかもしれません。あと,細かくてしょうもない指摘です。

  • p70の表4:水力発電による利水は表から除いているのかが,ちょっと不明でした。
  • p109の第3段落終わり:図9→図16
  • p124の図20:強度がちょっと言葉として分かりにくい気がしました。ざっくり言うと達成率?
  • p153の第2段落:それれが→それが(あるいは,それらが?)

*1:ウェールズの話もあるみたいで,ちょっと親近感

*2:読んだのがまた大分前なので,比較対象としては不適切かも知れません

*3:この本では環境用水と書かれているので,そっちのほうがメジャーなのか,そもそも意味が違うのかもしれません

*4:生態系保全やレクリエーションのために最低限必要な流量

*5:渇水時は別

*6:多いというほど事例は知りません。

*7:例外あり

*8:登録した時期の古い方が優先される

*9:MeDMARで言うところのスーパートップダウンか。