A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

ノニルフェノールの水質環境基準の設定に関する答申にパブリックコメントの募集がされていて,年末帰省した際に,関連書類を読んで,5つのコメントを出してみました。パブリックコメント初体験なのですが*1,整理として,

の順に以下に残しておこうと思います。なお,第一次報告(案)などはこちらパブコメの結果に関する資料はこちらで入手できます。いつも通り,個人的なメモになってしまうので,「なにを問題視しているかよくわからんよ」となるかもしれませんが,お許し下さい。


一つ目。

ボクのコメント

 <該当箇所>
第一次報告(案)p3
「生物の個体群への存続への影響が生じないレベルを確認し」
 <意見内容>
どのように確認したか,あるいはどういう仮定を用いたのか,明示する方がよいように思います。例えば,「死亡、成長、繁殖等に係る再現性のある方法によって得られたデータをもとにし、これらの特性に影響がなければ、個体群の存続への影響が生じないと考えられるため、」のようにするなど。
 <理由>
第一次報告(案)の全体を通して,個体群レベルの影響についてどう考慮した(どのような仮定を用いた)かについての説明が不十分に感じます。リスク評価を行う上で,用いた仮定をきちんと明示しておくことは専門学会や学会誌等でも再三必要性が主張されている事項だと思います。

要約された意見(御意見の概要)

「生物の個体群への存続への影響が生じないレベルを確認し」とあるが、どのように確認したのか考え方等を明示すべきである。

回答(御意見に対する考え方)

「生物の個体群への存続への影響が生じないレベルの確認」については、(参考3)に示した試験法を用いて得られた「慢性影響を生じない濃度」を確認することとしております。なお、影響内容、エンドポイント等については、(参考2)および(参考3)をご参照ください。

ボクの感想

おそらく詳細まで読めてなかったですね。まぁ付録部分なので,お許し下さい。指示された資料には,「水生生物の世代交代を考慮した、個体群の存続への影響を慢性影響」,あるいは「個体群の存続に対する影響(慢性影響)」とありますので*2,"個体群の影響は,一般的な個体レベルへの慢性影響で評価した"と解釈できるかと思います。


2つ目。

ボクのコメント

 <該当箇所>
第一次報告(案)p6
「なお,個体群の存続への影響を防止することを目指して設定するものであることから,いわゆる安全係数は適用しない」
 <意見内容>
安全係数が具体的に何のための安全係数を示すか,説明を加えた方が良いように感じます。例えば,「個体差の違いを考慮する安全係数」など。あるいは,この文章自体は不必要かもしれません。
 <理由>
安全係数が通常どのような場面で用いられている「安全係数」を指しているのか曖昧に感じます。

要約された意見(御意見の概要)

「安全係数」について、何のための安全係数か説明を加えた方が良い。

回答(御意見に対する考え方)

ご意見をふまえ、「個体差を考慮した安全係数」と修正いたします。


3つ目。

ボクのコメント

 <該当箇所>
第一次報告(案)
(2)環境基準項目等の検討の「このため,全国的な環境管理施策を通じて」
 <意見内容>
「このため」が指している具体的な内容を明示する必要があるように思います。
 <理由>
前段落で全国的な目標値の超過状況が説明されており,それを受けて「このため」と記載されております。しかしながら,「このため」が指している内容が不明確で,目標値を環境基準とする具体的な根拠が曖昧に感じます。例えばこの文章では,目標値が超えている地点が少しでもあれば環境基準として設定されるようにも読み取れますが,それでよろしいのでしょうか?

要約された意見(御意見の概要)

「このため全国的な環境管理施策を通じ・・・」とあるが、「このため」というのは何を指すのか。

回答(御意見に対する考え方)

「このため」は、「全国的に目標値を超過している地点があること」などその前段の段落の内容を示しております。なお、環境基準の選定の考え方については、「2.基本的考え方(2)水生生物保全環境基準及び要監視項目の選定の考え方」に記載のあるとおりです。

ボクの感想

意図がきちんと伝わっていないかもしれませんが,参照先には定量的な判断基準は書かれていませんので,ちょっと残念です。


4つ目。

ボクのコメント

 <該当箇所>
生物Aと生物特Aにおける基準値の違いの本質的な意味について
 <意見内容>
2つの類型に異なる基準値(1ug/Lと0.6ug/L)が割り当てられていますが,それら導出に大きい不確実係数(100と10,資料では推定係数及び種比の係数)が用いられており,基準値の小さな違い(0.4ug/Lの差)に本質的な意味があるのかよくわかりません。例えば,値として統一してはどうでしょうか?
 <理由>
用いられているいずれの不確実係数(推定係数と種比としてそれぞれ10)は,明確な科学的根拠があるわけではなく,不確実係数の値自身に不確実性(不確かさ)があります。それを考えた場合に,1ug/L(不確実係数100を使用)と0.6ug/L(不確実係数10を使用)にどれだけ本質的な違いがあるのか分かりません。すなわち,0.4ug/Lという小さな差の2つの基準値を明示的に区別して設定する意味が本当にあるのかについて疑問が残っているように感じます。

要約された意見(御意見の概要)

淡水域の一般域(生物A)の基準値1μg/Lと特別域(生物特A)の基準値0.6μg/Lについては、基準値の値の差が小さいため数値を統一してはどうか。

回答(御意見に対する考え方)

淡水・海域とも、水生生物の産卵場及び感受性の高い幼稚仔の生息場として特に保全が必要な水域については、特別域という類型区分を設けております。基準値の導出にあたっては、参考1〜参考7にあるとおり一定の考え方に則って、一般域と特別域各々基準値を導出していることから、統一すべきではないと考えます。

ボクの感想

差が小さいからという理由ではなくて,不確実係数の"不確実性"を考えて,という意図だったのですが*3,要約文もちょっと要約されすぎて,本来の根拠が分かりにくくなっている気がします。


5つ目。

ボクのコメント

 <該当箇所>
過去に行われた環境省独自の野外調査結果の利用について
 <意見内容>
以前,亜鉛の環境基準を検討した際に,ノニルフェノールも対象とした貴省独自の野外調査が行われていたように記憶しております。その調査からどのような結果が得られているのでしょうか?この点について,当該報告書内で言及される必要はないのでしょうか?
 <理由>
貴省が実施された調査ですし,どのような結果が出たかについては,この際に併せて公表された方が良いように感じます。例えば,その野外結果から見ると,今回設定されるノニルフェノールの基準値はどのように解釈できるのでしょうか?

なお,ボクが指摘している調査結果はこちらです。


要約された意見(御意見の概要)

野外調査の結果があるのならば併せて公表すべきではないか。

回答(御意見に対する考え方)

水生生物の生息は、開発行為による生息場の消失等の多様な要因によって影響を受けることから、化学物質の生態系への影響の程度を実環境において定量的に分離・特定することは困難であり、調査方法を含めて検討中です。したがって、実環境水中でノニルフェノールが水生生物へ与える影響を分離・特定して確認できた調査結果はありません。なお、公共用水域におけるノニルフェノールの検出状況については、(別紙2)に示しております。

*1:安易な気持ちで出したわけではないです

*2:というか,こういう表記は亜鉛の時はあったんだろうか。。未確認。

*3:実務的に見れば,この差自体は気にしなくてもいいのかもしれません