A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

毒性試験結果の解釈のぶれ

Tanoue R, Margiotta-Casaluci L, Huerta B, Runnalls TJ, Eguchi A, Nomiyama K, Kunisue T, Tanabe S, Sumpter JP (2019) Protecting the environment from psychoactive drugs: Problems for regulators illustrated by the possible effects of tramadol on fish behaviour. Sci Total Environ 664:915-926. doi:https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2019.02.090

愛媛大のTNUEさんのお仕事。毒性試験の結果の解釈について、専門家の判断が結構ブレるよという話。データとしては本文でものべているけど、ばらつきも大きく、同じ濃度区内での繰り返しのタンクの片方でしか差が見られていないという、絶妙なデータだからこそではあるのですが、確かになかなかぶれるね、という印象です。個人的には、ある程度、解釈における仮定を明示すれば、回答を分類できたりするのでは?と思って読んでいました*1。本文で、確証バイアスについて議論されているのですが、個人的にはそれ以外にも要因はありそうだなと思いました(リスク認知とか)。いずれにしても、こういう研究ってあまりないのでメモとして。著者にはSumpterさんもおられる。

*1:ただ、分類できてもどれを選ぶかというのは以前難しい問題ではあるのですが

SETAC AU 2025 ウェリントン

今年は2年に一度のSETAC AUなので、北米はいかずに、ニュージーランドウェリントンでの大会に参加してきました。ダーウィンの時はボクが誘った?HNDさんとかがいたのですが、日本人はいなくて、気軽に話す相手がいなく結構寂しい感じでしたが*1、色々と面白い発表も見れたり、会いたい人に会えたり、結果的にはとても満足している自分にわりと驚いています。笑 以下は雑多なまとめで、後で適宜追記するかもしれません。

  • ニュージーランド開催
    • これはRickに聞いたのですが、NZ開催だと、オーストラリア勢の参加が少ないとのことでした。確かに、統計なFoxさんとか、魚の行動なWong?さんとか、ダーウィンで見た顔が少なかった気がします。近いのにそんなに変わるものかと、ちょっと意外でした。今回は Australasian College of Toxicology & Risk Assessment (ACTRA) という(おそらく人健康な)学会とも同時開催だったせいもあってか、人数自体が少ないとかはあまり感じませんでした。個人的にNZは初上陸だったのですが、米国のESTAみたいなのに、観光税として100NZドルとられたのがわりと衝撃でした。でもこれ、日本もやったほうがいいです。絶対。
  • 会場
    • 今回はAirbnbを使ったのですが、会場(James Cook hotel)はウェリントンの中心街からすぐで便利でした。天井の高い開放的なAirbnbにくらべて、会場の天井の低さが気になってしまいましたが、会場は3会場で、移動もしやすくほどよくこじんまりしていてちょうどよかったと思います。
  • 自分の発表
    • ポスター発表:推進費の金属の複合影響評価の結果を発表したのですが*2、数人にしか説明しませんでした。というか、ポスター発表の時間でみんなポスターみないで立ち話していて、全然聞きに来てくれる感じじゃなかったです。とはいえ、とりあえず、この人とは話したい、という人が見に来てくれてお話できたのでひとまず満足。複数人がポスターも口頭も同じような内容でやっていて、なんかもしかするとボクが想像する位置づけと違うのかもしれません*3
    • 口頭発表:最終日に、共著を含めこれまで出した5本くらいのSSDの論文を紹介する発表をしました。という意味で新しくないんだけど、やっぱり宣伝は大事で、発表後に「これまさにボクが探していた研究の一式だよ、"You are my man"」とか「一連の論文読んでたけど、あなたが著者だったのね!」なんて言われると、あーここで発表して良かったなと思うわけです。なんか発展があるといいなぁと思います。
  • レビューのメタ解析
    • カナダに移られたNKGWさんのグループの学生が複数来ていて、レビューのメタ解析の話が複数あってとても面白かったです。MATE、一緒に検証しませんか、みたいなメールを送ってくれてきてたMさんにも実際に会えたのはも全然予想してなくて、そしてとてもいい感じの方でした。 一方でその粒度だとなんの役に立つのか、ちょっとよくわからないなぁ思う印象を受けたりもしました*4
    • 例えば、これは別の大学のグループで、レビューのメタ解析ではないではないけど、マイクロプラスチックの毒性の影響サイズをメタ解析してて、そんなのいろんなパラメータでかなり変わりうるので、その粒度じゃ、うーんと感じでした。全体で見てもエフェクトサイズは負ですね、って言われても、いやそんなこと、、と思ってしまった。そもそも信頼区間がめっちゃ大きいのにそんなこと言ってて、よくわかんなかった。というのもあるのですが。、、まぁ、そういう限界みたいなものを感じられたのも、楽しかったです。
  • 行動関係
    • 魚に物質を直接注入して(ESTに論文)、閉鎖系の池?で行動を見るという取り組みがとても面白かったです。直接化学物質を注射?することで曝露を模擬しながら、実際に環境に化学物質を投入する必要がなくて、曝露個体も非曝露個体も同じ系で行動を見れるんですよというのもウリだって言ってたと思うのですが、それ自体は魅力的だとしても、逆にその設定は非現実なんでは?とも思ったり。でも、これとても面白い実験系だと思いました。
  • 微生物の応答をSSDに取りこむ
    • という話もあって、そんな非現実なと思ったけど、ちゃんと生きている微生物の応答をメタバで定量的に捉えて、濃度反応関係を書く、というのが現実的にできていて、大変興味深かったです。圧倒的多数な”種”の応答が見られますし。実際の海水を使って試験するので、おそらく課題は、再現性とか標準化とかのところではないかなと思います。個人的には大きなスケールでの環境基準というよりは、もうちょっと違う使い方のほうが筋がいいのではないかなぁと感じました。
  • NSEC
    • NSEC自体に個人的には否定的だったんですが、例えば上のような文脈だと、NECとかよりもNSECのほうがより現実的に妥当そうな数値を出してくれそうだなと思いました。Rickの発表によれば、AUだと、NECとNSECがpreferred metricsのようです。Burr type IIIが標準モデルからdropされたというのも個人的には印象的でした。

(ひとまずここまで)

*1:まぁでも最近はそういうところにあまり行かないのでこれはこれでいいことだと思っていますが…

*2:金属の曝露プロファイルから複合毒性試験まで

*3:ということもないとは思うんですが、もっとポスター発表を聞く感じになろうよって思いました。そういえば、僕のとなりのNZのEPAの方もなかなか話を聞いてくれる人がいないよね、って感じでした…

*4:いや、研究としても手法としてもとても面白いんだけど

ACS系のジャーナルに投稿する時の注意

これはほぼボク個人への備忘録なのですが、ACS系のジャーナル(今回の場合は、ES&T)に投稿する場合、受理された論文をオープンアクセスにする費用が払えないからプリプリント公開しよう、(後出し?)プリプリント公開ができない仕様になっているので要注意*1。ただ、受理後にこの事実に気づいた場合、現時点で、私の理解だと、publication後12ヶ月後のエンバーゴ期間を過ぎてから受理済み原稿をレポジトリーとかで公開する、という手しかなさそう。Zero-embargo green open accessとかって枠もあって、OAと同じくらいお金とられるの、ちょっとこのpublisherの印象が変わる。
Understanding Your Green Open Access Options With ACS Publications

*1:プリプリントにあげて、カバーレターで言及するのがいいと個人的には思う

カゲロウ類(科レベル)の画像認識モデルによる同定

Iwasaki, Y., Arai, H., Tamada, A. et al. Japanese mayfly family classification with a vision transformer model. Limnology (2025). https://doi.org/10.1007/s10201-025-00805-9

同期で同じ班になったというよしみのARIさんと共同筆頭で、カゲロウ目の科レベルの同定をビジョントランスファーモデルでやってみたという研究です。個人的には、このモデルをWebサイトにあげて、画像入れたら同定してくれるみたいなのまで行きたかったのですが、ちょっと色々ハードルが高く無理でした。。個人的に学んだことは以下通り。

  • わりと科レベルくらいなら当てられる(ただし、この論文でやったのはカゲロウも、コカゲロウ、ヒラタ、マダラ、その他の4分類)。種レベルでも精度良く当てられる論文も少し前に出て、うまくやればできそうな感じ。
  • どこを見て判断しているかも示せるのですが、ぼやっとしたり、複数箇所を見ていたりして、明瞭なことを言うのは難しそう。
  • どういう場面で使うかを考えて画像集めとかを始める必要がある。そして学習に使える画像がない。今回は上から全身が見える形で写真を撮った画像をMNMさんから提供頂けるというのをベースに、TMDさんにも聞いて、少ないながらも揃えたと言う感じです。お二方、ありがとうございます。種レベルとかなると、画像の同定精度とかが気になってくるのも難しいところです。実装というか、実用を考えると、ソーティング段階から画像認識を使うのか、ソーティングした後か、とか、こういう細かい設定も考えて画像集めをするのが大事そうです。
  • この研究、水生昆虫な人が査読するにはモデルがわからず、モデルの人には水生昆虫がわからず、分野の狭間って色々難しいなと痛感しました。この研究ではARIさんがモデリング担当で、ボクは主に画像集めと論文書きでうまく分担できた気がしています。論文のお作法や査読にしても物理系?のARIさんと話していると分野間で違いがあり、それも面白かったです。

ということでよければ、ご笑覧ください。OAではないので、PDF送ります!

Lemm et al. 2021

Lemm JU, Venohr M, Globevnik L, Stefanidis K, Panagopoulos Y, van Gils J, Posthuma L, Kristensen P, Feld CK, Mahnkopf J, Hering D, Birk S (2021) Multiple stressors determine river ecological status at the European scale: Towards an integrated understanding of river status deterioration. Glob Change Biol 27:1962-1975. https://doi.org/10.1111/gcb.15504

先で紹介した論文の前に出た、わりと重要な論文を見逃していたようです*1。ヨーロッパ全域で、水文地形的な要因(平均流量、base flow index、土地利用*2)、栄養塩(TN、TP)、化学物質(複合影響の指標、msPAF)の大きく分けて3カテゴリーと、ecological statusとの関係を評価した論文。解析は、Boosted regression trees。結果としては大雑把には、50%強のばらつきが3要因で説明できて、おおざっぱにその寄与は大体3分割なんだけど、3つのカテゴリーでいうと、水文地形、栄養塩、化学物質の順に大きかったとのこと*3。これちょっとデータ遊んでみるのは良さそうかも。ちなみに、いずれもモデル推定値。

*1:もしかしたら気づいていたけど読みそこねていただけかも

*2:都市利用と農地利用、ただし、集水域を考えているわけではなさそう

*3:こんなんカテゴリーに含まれる入れたパラメータの数にも依存しそうやんという気もしますが

Chemical pollutionと生物多様性

Baccaro M, Focks A, Worth A, Chinchio E, Dubois G, Robuchon M, Carletti A, Bernasconi C, Bopp S (2025) Protection of biodiversity as the ultimate goal of environmental safety assessment: how does chemical pollution affect biodiversity. Publications Office of the European Union, Luxembourg. https://data.europa.eu/doi/10.2760/1215173

EUがまとめた化学物質の文脈で生物多様性の影響をどう評価するか(されているか)のレポート。ありがたいことにボクの2011年の論文を引用してもらってくれているけど、個体や個体以下のレベルの影響を個体群や群集レベルに外挿しないと、とか、昔から言われていることがまとまっている感じで、差し当たり目新しいことは書いているような感じはしない。

DOCをBODから予測する

Iwasaki, Y., Naito, W. Biochemical oxygen demand as a proxy for dissolved organic carbon in Japanese rivers: conservative estimates for ecological risk assessment. Limnology (2025). https://doi.org/10.1007/s10201-025-00804-w

これまた地味な成果って言われそうではあるのですが、金属あるいは陽イオン界面活性剤*1生態リスク評価とかをする際に、より精緻には生物利用可能性の評価が必要となり、評価したい地点の溶存有機炭素(DOC)の情報が必要になるのですが、日本の河川では、生物化学的酸素要求量(BOD)が基本で、DOCのデータはほとんどありません。一方で、水文水質データベースをみるとなぜかDOCを測っている地点があって、そういうデータを使って、BODとDOCの関係を調べて、とてもばらつくので、分位点回帰でコンサバな推定値を出せるモデルを構築しました。という論文です。我ながら、(銅とかの金属リスク評価におけるDOCの重要性を考えると)こういうすでに誰かやっててもおかしくないよなぁと思う地味な感じはするのですが、誰もやっていなくて、まぁこういうのがボクの仕事かなとも思ったり。。。ということでそのうち使われるといいなぁと思う成果です。別途、BODとDOCの調査結果とかも使って、検証もしていて、ご協力頂いた皆さまありがとうございます。
ちなみに、水環境学会誌に2022年に掲載された論文の結果を使うと、BOD自体も土地利用割合とかから推定可能なので、BODのデータ自体がなくても、とりあえず”えいやで”DOCを(ある種客観的に)付与することができます(こっちは論文にするつもりはあまりないのですが。。。)。