A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

急性及び慢性毒性値で描かれた種の感受性分布の比較

Hiki K, and Iwasaki Y. 2020. Can we reasonably predict chronic species sensitivity distributions from acute species sensitivity distributions? Environmental Science & Technology 54:13131–13136. 10.1021/acs.est.0c03108

HKさんと今年3月頭?くらいから始めた解析が論文になりました(オープンアクセスです!)。ES&T!

やったことと結論はわりとシンプルで,要は

  • EnvironToxというデータベースにある急性と慢性の毒性データを使って,150物質について急性毒性データと慢性データを使って2つの種の感受性分布(SSD)を書いた。
  • 急性SSD(急性データに基づくSSD)と慢性SSDについて,平均値,標準偏差(毒性値のばらつき),HC5(5%の種が影響を受ける濃度)を比較した。
  • 慢性SSDの平均値は,平均的には急性SSDの平均値の0.1倍であった。ばらつきを考えても,0.01~1倍の範囲に多くの物質が含まれていた(Figure 1)。
    • これは,生態リスク評価の有害性評価で用いられるいわゆる急性慢性比のSSD版と考えてもいいと思う。
  • 慢性SSDと急性SSD標準偏差の範囲は,全体でみると重複しており(Figure 1),SSDに用いる種の数が多ければ(例えば n > 10)その差は小さくなった(Figure 2)。
    • 急性のSSDしかデータがなくて慢性SSDが書けない場合は,ひとまず平均値は0.1倍,標準偏差は同じとして,慢性SSDを書くというのも悪くなさそう。
  • HC5でみると,上から予想される通り,慢性のHC5は,平均的に急性のHC5の約0.1倍(Figure 3)。
    • ただし,標準偏差のずれも影響を受けるので,全体をカバーする範囲をしようとすると,平均値よりも全体的にデータがばらつく。

という感じでしょうか。文字にするとわりとごちゃごちゃしていますね。。ちなみに,同じモチベの先行研究は,SSD本にあってde Zwartさんのお仕事*1

この研究,個人的にとても楽しかったので,備忘録としてちょっと経緯も書いておきます。3月頭にとある論文を読んでこのネタに思いついて,「データもこの論文の使えばいいやん」と思って簡単に解析し,でも誰かとできないかなと思って,TXでたまに会うHKさんにメールした。そしたら,その日の午後に打合せができて,とりあえず引き取ってくれるとのこと。HKさん自身で使うデータを検討していただき,何度かメールのやりとりをしてEnvironToxを使うことになり,簡単な解析を共有してもらった(確か,それが3月中旬!早い)。並行してイントロを書いていたので,その数日後にボクからイントロを送付。方法や結果なども書いた原稿が,3月末にボクに着弾。で,4月中にリバイスを重ねて,英文校閲をかけて5月に投稿。という感じです。

先行研究があることも考えると,さすがにES&Tはきついかなと思っていたのですが,挑戦することにして,カバーレターはわりかしいいカバーレターを書けたと個人的に思っています(ただ,エディターリジェクトに効果があったかは不明)。シンプルな研究なのですが,査読者のコメントもわりと前向きなコメントが多く,内容がさらにブラッシュアップされたように思っています*2

ES&Tにしては査読に時間がかかったので,研究期間より査読に時間がかかったという感じです*3。あまりにスムーズに進んで個人的にはなんと心地よい協働だっただろうと思っております笑 色々とありがとうございました!

*1:ボクが言うのもなんですが,この方の研究は割と目のつけどころが個人的な興味と重なって面白いなぁと思っていたりします

*2:ただ,よくわからないコメントもいくつかあった

*3:コロナもあるとは思うけど,ES&Tは経験上メジャーリビジョンから対応がきちんとできていればエディター判断で受理とする事が多く(といっても,経験は過去に2回中2回で,サンプル数は少ないですね笑),今回はそれが適用されなかったせいもあるかも?