A way of thinking

筆者個人の思考過程です。意見には個人差があります。

LAS濃度が高い河川地点はどんなところか?

岩崎雄一, 本田大士, 西岡亨, 石川百合子 山根雅之 (2019) LAS濃度が高い河川地点はどんな特徴があるか?:水生生物保全を目的とした水環境管理への示唆. 水環境学会誌 42:201-206. doi: 10.2965/jswe.42.201

環境学会に掲載された自分の論文を久々に紹介したいと思います。タイトルの通りで,LAS*1濃度が高い地点ってどんな特徴があるのか,というのを,水面幅(河川規模の指標),周辺の土地利用,BODの程度という観点から調べてみました。という感じです。「おわりに」を読んで頂ければ伝えたいことは伝わるかなとも思うのですが,要は,LAS濃度が高い地点は低い地点に比べて,

  1. 蛇行等によって水面幅が自然に大きく変化する河川ではなく,水面幅の変化が少ない(河道が固定化された)小規模の河川に割合として多くみられること
  2. 周辺に森林や農地が少なく,住宅地や市街地が密集する都市域により多くみられること
  3. BOD が高く有機汚濁が進行した河川に割合として多くみられること

が示唆されました。LASの主な利用用途が洗剤であることを考えると別に驚くべきことではないのですが,これ管理を考えたときにどんな意味を持つかは,是非「おわりに」を読んで頂ければと思います(是非読んで下さい。大事なのでもう一回いいます)。他に言いたいことは,査読がめちゃくちゃ大変だったこと*2Google Earthで川幅を測る作業は原始的でなんか夏休みの自由研究しているみたいでした*3Google Earthで川幅測れるやん!って思いつきで始めた研究で,地味で国内誌のノートではあるのですが,個人的には思い入れの大きい魂の籠もった1本になったと思います。

*1:界面活性剤の一種

*2:かなり辛辣なコメントがあったのですが,臆せずかなり攻めました。一方でそういうコメントから学んで本文を修正したことで良くなった点も少なくないとは思います

*3:でも,もう300地点近くは見たくない笑

Effect-based assessment

De Baat, M. L., Kraak M. H. S., Van der Oost R., De Voogt P., Verdonschot P. F. M., 2019. Effect-based nationwide surface water quality assessment to identify ecotoxicological risks. Water Research 159, 434-443. <<

SETAC Helsinkiで話したMiloさんの論文。環境水を用いた影響(毒性)に基づく評価って,古くからあるのに,Water Researchとか載るのかぁと思ったけど,思った以上に大々的に色んな影響を測定している。個人的につっこみたいところはあるのですが,研究ベースでこういう検討がされるのは悪くないと思います。Miloさんのイントロで書いているけど*1,Effect-basedの利点は,環境水の総体としての毒性を調べられること。個別の物質測定では漏れる物質が影響を及ぼしている場合も(理想的には)捉えられる。一方で(水質測定は別途やっていそうだけど)この論文では,水質のデータはないので,個別の物質濃度測定の評価とこの評価どう異なるか?という点は不明瞭。地点毎のリスクレベルのランキングとかできるって書いてあるけど,それは水質測定でもできる。面白いのは,それと結果がどれくらい変わるかとかじゃないかなぁと思ったり。あとは,実際の野外影響とのリンクもこの論文では検証されてない。余談的だけど,Miloさんは面白い感じの人で,この論文も分かりやすくよく書けていると思った*2
個人的には,Effect-based trigger values (EBTs)というのが推定されているというのを知れて良かった。あ,あと一つのミソは,Passive samplerで現地で吸着させて,それを溶出させて(たぶん)曝露させているところか。

*1:この論文のイントロ結構綺麗に書かれていてよい

*2:ひとまずこのあたりの感想をメールで送ってみようかなと思う。

指標生物関係

浦部美佐子, 石川俊之, 片野泉, 石田裕子, 野崎健太郎, 吉冨友恭, 2018. 大学生アンケートによる水質指標生物の教育効果の検討. 陸水学雑誌 79, 1-18.

オンラインでフリーで読めます。結構痛烈な批判をされているけど,確かに学習や教育という面で指標生物をどう扱うかは難しいなと思いました。生物が水質の指標になるというのは,未だ魅力的なことだけど,ばしっと言い切るには難しいことも多く…。因果の話とかを突き詰めるともっと体系的な質問が必要だとも思うけど,個人的には指標生物の学習によって,環境への興味を喚起されたというのは救われる結果だなぁと思いました。以下の指摘も文章としては初めてみたように思う。

現在の日本では,化学的な水質モニタリングが技術的に容易になったこともあり,もともと判定のあいまいさを含む指標生物が水質研究の主要な手法として採用されることはほとんどなく,大部分が教育・啓発を目的として実施されていると思われる。このように,指標生物による水質判定は,今日では「水質の簡易判定」という本来の目的はほぼ失ったと言えるが(後略)

大垣俊一, 2008. 指標生物の論理. 日本ベントス学会誌 63, 56-63.

浦部さんの論文で引用されていた論文。こういう議論がオープンにされているのは有り難いことだなと思う。ポイントとしては以下。ただ,批判はしつつ,総じて前向きな展開を考えていると理解しました。

  • 指標生物は帰納である
    • 帰納的に指標生物は選定しているので,使用したデータの外側に適用すると,役に立たなかったり,そもそも適用不可の範囲が不明。
  • 指標生物は後件肯定である
    • いわゆる因果の話と理解。その種がそこにいたとしても特定の原因でそうなっている,と議論するのは難しい。
  • 指標生物は循環論である。
    • この点はちょっと指標生物の作成の仕方なんかに依存して変わりそうで,いまいちピンと来なかった。ただ,なんとなくの危険性は理解できる*1

*1:深く理解してないです

Eco-epidemiology

Posthuma L, Dyer SD, de Zwart D, Kapo K, Holmes CM, Burton GA (2016) Eco-epidemiology of aquatic ecosystems: Separating chemicals from multiple stressors. Sci Total Environ 573: 1303-1319. DOI: https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2016.06.242

タイトルにあまり意味はありません。DyerさんはP&Gの人。基本的にはLeoさんやDickさんらの既往研究をベースに野外調査データ(水質&水生動物)をこういう風に使っていきましょうよ,という総説のような感じ*1。以下は,結構意訳を含む個人的なメモ。因果については結構慎重にイントロで書いてあるのだけど,Discussionではちょっと言い過ぎじゃない?ってところも散見された。

  • 個別の物質のEC50などで描いたSSDを元に,msPAFを計算してそれをtoxic pressure potencyとして使う
  • 使用するデータでtoxic pressure potencyがそもそも一定の幅があることとそれと他の変数の相関*2を確認する必要がある*3
  • 個別物質の曝露と生物種の個体数の関係はいまいち見えなくても,複合で考えると(例えば重回帰分析)影響を検出できることがある。
  • 対照地点と設定しても,それが本当に対照地点と適当かも,測定した水質などによって検証すべき
  • 複合影響といっても,実は少ない数の化学物質が寄与している場合もある(Backhaus and Karlsson 2004)
  • 我々はこの論文では,prioritizationにフォーカスしている。
  • 広域のデータを使って,個別の地点における影響要因を探ろうとしている(岩崎感想)。
  • 当然だけど,SSDは万能薬ではない
  • 化学物質によるインパクトはここ数十年で減少しているが,現状の影響レベルに関する我々の診断は「さらなる努力が必要」。
  • Effect and Probable Cause (EPC) methodって何をやっているかが気になる(岩崎感想)。

De Zwart D, Dyer SD, Posthuma L, Hawkins CP (2006) Predictive models attribute effects on fish assemblages to toxicity and habitat alteration. Ecol Appl 16: 1295-1310. DOI: 10.1890/1051-0761(2006)016[1295:pmaeof]2.0.co;2

EPCのおそらく元論文。ざっと読了。ざっくりいうと,重回帰。ただ,結構色々やっている。”Probable” とcauseの前についているのがポイントなんだろうな,という感じ。でもきちんと,因果とは必ずしも関係ないけど,ここではこういう解析で出てきた結果をcausesという言葉を使うよ,という風にしている。日本版RIVPACSモデルとか誰か作ってくれないかなぁ。

*1:これ査読した人どういう風に意見したんだろう…という不思議な感じ

*2:交絡因子など影響を議論する際に重要

*3:まぁこれも当たり前の話ではある。何かの変数と強く相関する場合は,影響検出は難しい。多くのデータだとこのcovariationが少なくなるということも書いてあって,それは確かにと思った

Burdon et al. 2019

Burdon FJ, Munz NA, Reyes M, Focks A, Joss A, Räsänen K, Altermatt F, Eggen RIL, Stamm C (2019) Agriculture versus wastewater pollution as drivers of macroinvertebrate community structure in streams. Sci Total Environ 659: 1256-1265. DOI: https://doi.org/10.1016/j.scitotenv.2018.12.372

Burdonさんの論文*1Twitterでは結構有名?な気がするので,期待して読んだのですが,調査デザインは結構しっかり組んでいるのに,出てきている結果はなんともいえないというか。。。貧毛類が下水処理場下流で個体数が増えているようなのですが,統計解析も結構ゴネゴネしている印象。化学分析も色々やっている割に…という印象。まぁこれが都市河川の難しさなのかもしれません。このレベルだというのが分かって*2,まぁ個人的には勉強になりました。

*1:面識はないです

*2:これでSTOTENかという感じ…

Coal miningの環境影響

Giam X, Olden JD, Simberloff D (2018) Impact of coal mining on stream biodiversity in the US and its regulatory implications. Nature Sustainability 1: 176-183. DOI: 10.1038/s41893-018-0048-6

炭鉱が下流の河川の生物多様性に及ぼす影響をメタ解析した研究。セレン,カルシウム,マグネシウム,硫酸イオン,炭酸水素イオンあたりが問題となっているようです。Clean Water ActとSurface Mining Control and Reclamationという法律が絡んでいるようです*1。Coal mining下流無脊椎動物,魚類,サンショウウオあたりへの影響が対照河川と比べてどの程度変化しているかを調べて,どの分類群でも種数や個体数に減少が観測されていますね。というお話。Reclamation(採掘活動前の状態に鉱山地域を回復されること*2)が完了しているかどうかでも比べて,あまりその効果は明瞭では無いですよね?という話*3。イオン濃度とかとの影響レベルの関係を調べているわけではないので…という感じなのですが,メタ解析して,米国全土で保全の懸念が高い地域などを推定しているところが評価されたんだろうなぁと思う。Discussionも結構生々しい。Oldenさんも共著者の一人。

*1:魚類や野生動物,関連する環境の価値に対する悪影響を最小化するように…といった文言もあるようです

*2:意訳です。Reclamation of mined areas to pre-mined condition

*3:個人的には,pre-mined conditionなんて概念が出てきたのが興味深い

Structural Equation Model を使ったTravisさんのご研究

Schmidt TS, Van Metre PC, Carlisle DM (2019) Linking the Agricultural Landscape of the Midwest to Stream Health with Structural Equation Modeling. Environ Sci Technol 53: 452-462. DOI: 10.1021/acs.est.8b04381

TravisのES&Tの論文。藻類,底生動物,魚類の調査データをそれぞれ1つの指標にして,水質,物理環境,土地利用なんかの影響を調べた研究。ある種,王道なんだけど,方法やDiscussionも含めて総じて勉強になる*1。まぁ,この研究でも色々えいやで変数を絞りだしているんだけど,よく考えた上でのひねり出している印象を受ける。Darenさんも共著者。個人的に興味深いのは,この調査自体は色んな人が関わっていて別途それぞれ論文になっているんだけど,それを統合したこの論文では選び抜かれた3人という感じ?になっているところ*2。以下はいつも通りメモ。

  • すでに公開されている各調査の論文も含めて,USGS+EPAデフォルトの調査方法みたいなのが探れそう。
  • SEMは一度やってみてもいいかも。ただ,この調査自体は調査地点の選定からかなりよく練られている印象*3
  • 生物調査を実施する前の数週間数ヶ月前から水質測定を行っている。
  • 生物学的健全性を評価するために,Multimetric indexをそれぞれの分類群で計算している*4。一方で,指標が何を意味しているかは不明なので,どうしても結果の考察は曖昧にはなる。
  • SEMのモデル構築は結構細かく書いてある*5
  • 藻類,底生動物,魚類で影響要因が異なってくるのも面白い。魚類は水質(殺虫剤や除草剤系)は重要な変数にならずに,より広いスケールの変数が重要になってくるなど。
  • 三つの分類群でそれぞれ違う要因の影響を受けていて,"each community embodies unique aspects of ecological health that cannot be quantified by simplifying ecological health into a single metric"とかもまぁその通りですよね。という示唆。
  • 考察で色々パスについて考察しているけど,省略。ここまで言えるのか?と思いつつも,ざっとしか読めてないので深いコメントできません。
  • どのストレッサーが重要かという問いに,一つの回答はない。色々。でもここで見えてきたパスを考えると対策は考えられるでしょう。という話。あくまで調査対象地点全体の話ので,そのあたりがちょっと物足りない気もするけど,まぁそれがこういう研究の落としどころになるのは仕方ないと思う。

*1:なんというか,この手の研究で機械学習とかでえいやってやりました!とかっていうSTOTENとかに沢山載っている論文とはひと味違う感じがする。さすがTravis先生

*2:こういうの日本でやると色んな人がぶら下がってくる気がする

*3:このあたりもさすが感。日本でこういうのやると…ry

*4:このあたりもえいやではあるんだけど,経験的に受け入れられている指標を使うのは悪くはない

*5:勉強しないといけない